君に恋していいですか?
降りてきた彼女は、黒いTシャツにスキニーパンツ、スニーカーを履いていて歳相応に見える。



…考えたら一回り以上年上じゃないか、俺。
犯罪にならないか…?


「こんばんはぁ。」



フワフワした髪をおろしたままの池永はほんのり頬がピンク色に染まっている。


「遅くにすまない。大丈夫?」

「はい!課長は何処か行ってらしたんですか?」


ニコニコ顔の彼女を見ていたら、抱きしめたくなる衝動に駆られた。


「あぁ、伊島と居酒屋に行って飲んでたんだ。」


へぇ、と目を見開いて楽しそうな顔をする。
俺が会社の誰かとプライベートを共にすることなどない、と思っていたのかもしれない。


「行こうか。」

「えと、何処に行くんですか?」


そうやって聞いてくる池永の右手を掴む。


「俺んち。」


「課長⁉︎あの、手、手を」


俺んち、と言った事よりそっちかよ!


…と、突っ込みたかったけれど。

「逃げられたら話にならないから。」



そう言って退路を断つ。






アワアワしたままの彼女を半ば強引に連れて来た。


部屋に入り、クーラーのスイッチをつける。


「そっち、座ってて。着替えてくるから。」


一人掛けのソファに座るよう伝えてから寝室に入る。


心臓が暴れてて、大丈夫なのか俺?とか思う。



素早く着替えてリビングに行くと、池永は立ったまま窓の外を眺めていた。



「座らないのか?何か飲む?」


そう聞くと首をゆっくり横に振る。
フワフワの長い髪が揺れる。

…ドキドキが止まらない。



「話…ってなんですか?」



小さな声の問いかけに、思わず口ごもる。


どうする?


イキナリ言うのって変じゃないか?

プレゼントの意味を聞くのが先か?



モヤモヤと悩んでいたら、池永が震える声で言った。



「わたし…何か悪いことしましたか?」


そうじゃない!



…言おうとした。でも、真っ直ぐ見つめてくる彼女の大きな目から零れた涙が言葉を止めた。



「今日…課長、すごく不機嫌だったから…わたしが勝手に送ったプレゼントに気を悪くされたのかとか、迷惑だったんじゃないかとか色々考えてました。」


不機嫌?



戸惑ってただけだ。



「課長は素敵な方だから、わたしなんて相手にされないの分かってるんです。

でもこうやって会社以外の場所で会ったりしてたら、わたし、自分にもチャンスがあるんじゃないかとか希望を持ってしまうんです!」




….は?


チャンス?

希望?


なんだそれ。


「池永、あのな」

「好きになっちゃいけないって、わかってるんです!」



そう言い放った彼女は背を向けた。


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