君に恋していいですか?
課に戻るなり、俺は勢いに任せて詩織の腕を掴み立ち上がらせた。


「伊島!」

「あ、はい!」

急に呼ばれた伊島が、慌てて立ち上がる。



「俺に異動の辞令が出た。
今後は異動までの間にお前に課長補佐としての指導、指示を出す。

俺の異動は10月1日、その日から伊島がこの本社広報課課長だ。


それから、広報の皆に。


もう皆も知っていると思うが、池永詩織と俺は付き合ってる。

だが、仕事は仕事だ。

今いるメンバーあっての広報だと俺は自負してる。

だから、池永は連れて行かない。


頼む、彼女を皆で支えてくれ。





…俺は必ず本社に戻る。



それまでの間、彼女を頼む。」




皆に向け深く深く頭を下げる。


「詩織。待っていてくれ。ここで、この場所で。必ず帰ってくるから。



…俺が本社に帰ってきた時に…結婚しよう。」



向き合いきちんと彼女の目を見つめ、そう告げる。



俺たちが出会ったこの場所に、いて欲しいから。



「詩織。」



大粒の涙を零し俯く詩織を抱きしめる。



「返事を。」



身体を離し、彼女の顔を覗き込む。




「はいっ、わたし、待ってます!ここで頑張って祐太朗さんを待ってます.…。」




泣き笑いの表情を見せ、ゆっくりと再び俺の胸におでこをくっつけた。



「浮気、しないでください。」


震える肩をゆっくりと抱きしめ、そっと身体を離す。



「池永さん、みんなで頑張りましょ?」


近づいてきた菊池にそう話しかけられ、詩織は振り向き頷いた。


「迷惑をかける。すまないが、よろしく頼む。」



もう一度そう言うと、人事部長から預かってきた詩織の辞表をスーツの内ポケットから取り出す。



「破棄するぞ。」


「…はい…」


目の前で二つに切り裂きゴミ箱に捨てる。


あと少しの間だけ。


2人の事を大目に見てもらおうか。



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