君に恋していいですか?
刻一刻と離れる時が近づいて来ていた。



詩織の意外な一面を垣間見ることが出来て、よかったように思う。


弱く見えて芯がしっかりしていて。


涙もろいくせによく笑う。



「詩織。」


離れると決めてから、同棲を始めた。
呼べば届く距離に彼女が居る。


「なぁに?」


スリッパをパタパタと音たてて近づいてきた彼女の手を取る。


「きゃ」


勢い良く引き寄せた詩織の身体は意図も簡単に俺の腕の中に収まる。



「充電。」

「はい…」


ギュッと抱きしめると背中に回ってきた手が、俺の背中で何やら動く。



「なんだ?」


「さぁ?何でしょう。」


ふふっと笑う詩織は、なおも背中で何やらしていた。


「ん?文字?」


「正解。何て書いてるでしょう。」


柔らかく甘い香りがする詩織の身体を記憶するかのように鼻を近付け抱きしめる。



「なんだろ。む?違うか、す?」


「当たり。じゃあ次は?」


「…き。」



わかってるよ、そんな事。





すき。


好き。


俺もだよ。



「詩織を好きになるまで、こんな気持ち知らなかったな。

元彼には感謝だよ。

あの時、詩織を手放してくれてありがとうって。」


ギュッと抱きしめると「ふふっ」と笑う。


「不思議なんです。
元彼にはこんな風に抱きついたりワガママ言ったりとかしたいと思わなかった。

でも…祐太朗さんにはそうしたくなるの。抱きしめて欲しいとか、キスして欲しいとか、思ったのって初めてだったの。」



不慣れな詩織を見ていたら、あまり経験がなかったんだろうとは想像出来る。


嬉しい誤算だったのは事実だ。


「ちゃんと待ってられるな?
お前こそ、寂しいからって浮気なんかするなよ?」

ふふっと詩織は笑う。



彼女なら必ず待っていてくれる。



何処からくるのか、そんな自信。


「約束ですよ?毎月必ず1回、2泊で帰ってくるって。」

「もちろん。あ、それと。」



まるで今思い出したとばかりに。



「約束の証?じゃねぇな、ご褒美か。」



手のひらに納まるほどの小さなそれ。



「ゆ…祐太朗さんっ」


見開かれた詩織の大きな目。
サプライズ成功だな。



「ちゃんと待ってるって約束したもんな?何年かかるかわからないけどさ…ケジメはつけるから。

俺の嫁さんになるまで外すなよ?」




それは小さなダイヤが輝くプラチナのリング。



そっと詩織の左手を持ち薬指に通す。



ピッタリと。



そこにあるのが当たり前とでも言いたげな存在感。



ポロリ、と手に涙が落ちた。



「外すときはマリッジリングを付ける時だ。」



違いのキスをひとつ。



こんなにも愛おしい存在に出会えたことに感謝。




「待ってます。


愛してる、祐太朗さん。」



しばらくの間、そうやって幸せをふたりで噛み締めていた。



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