君に恋していいですか?
ある日。



昼休みの社食でのこと。




いつもより10分程遅く休憩に入った俺は、独り社食で日替わりランチを食べていた。


それは毎日の事で、今日のメニューは生姜焼き定食。


さすがに30を過ぎたあたりから、こういったメニューが胃にもたれるようになっていた。




(若くない、って事だよな。)




味噌汁をひと口含むと少し煮詰まったようなしょっぱさが口に広がった。




自炊したことがないから、文句はいえない。




ため息まじりに食事を終え、お茶を飲んでいてふと目に入ったのは、小さなお弁当箱をつつきながら友人らしき女性と談笑する池永の姿だった。




(弁当持参かよ。ま、冷凍食品詰めただけってやつだろうなぁ。)




そんな池永の姿を何気無く見ていた。




笑う顔、しかめっ面、フワフワした栗色の髪をゆるく束ねて食事する、その手元。



綺麗な箸使いだな。





そして、ふわりと笑う彼女の表情が何故か胸に焼きつく。



あんな顔、あまり見せないな。


怖がられてるからしかたないのか。





ふぅ、と息を吐き食器をのせたトレーを返却口に返すため立ち上がる。



瞬間、池永がこちらを見て会釈した。




ふわり




あの焼きつく笑顔で。



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