君に恋していいですか?
「喧嘩したのか。」

尋ねると。


俯きがちに首を横に振る。
じゃあ、何故?


「あー、琢磨ね、奥さんがいるの。」


…は⁉︎


「なんだよそれ。」


苦笑いする咲に詰め寄る。
一歩も引かず、ホールドアップすると…話し始めた。


「今ね、離婚調停中なの。
奥さんに男がいてさ。それで別れるって話になってる。

…あたしのこと、好きだって言ってくれたのは嘘じゃないんだよ。


でも…大っぴらに出かけたりとかまだ出来ないんだ。」


「それでお前はいいのか?」


間髪入れず問うと小さく頷いた。


「だって、琢磨のこと愛してる。
琢磨もそう言ってくれた。ちゃんと離婚したら、お前を彼女だって宣言できる、って。

辛いけど、待つって決めたの。」


だから詩織に寄り添うのか。
同じ思いをする女同士。


「あいつが本気だってなんでわかるんだ?適当な事を言ってお前をいいように利用してるだけかもしれんだろ?」


俺の言葉に咲はパッと顔をあげ、睨みつけるように答えた。


「琢磨はそんな奴じゃない!あたし、愛されてるって自信ある!」


その言葉が裏付ける、ふたりの男女関係。肉体関係。


「後悔ないのか?」

「ない。」


まっすぐな咲の瞳。
決めたらテコでも動かないんだ。


「外出じゃなければ呼べるか?」

1度きちんと話したい。
奴の気持ち。


「うん。」

出掛けた後、ここに呼ぶべきだな。


「夕方ここに呼べ。俺が話したい。」

そう決めると、咲は電話をかけはじめた。

「祐太朗さん…」

それまで黙っていた詩織が俺に寄り添いながら言う。


「山本さん、咲さんのこと本当に愛してますよ。でなきゃあんな風に怒り狂ってここに来たりしないと思う。」


わかってるさ。

だけどな。


自分の目で見て、自分で話さなきゃなかなか納得出来ないんだ。


妹に幸せになってもらいたい。


そんな兄心なんだよ。


「確認したいだけなんだ。」


それだけ言うと。
隣に立つ詩織を見て、俺は複雑な心境になった。

離れ離れの俺たち。
でも気持ちは誰よりも側にあって。

近くに居る咲たち。
でも寄り添うことがまだ出来ない。


「詩織、俺、頑張って早く帰ってくるよ。だから。」

正面に向き合い。


「結婚しような。」


それは自分自身への誓い。


「待ってます。祐太朗さんのこと信じてる。」


その左手薬指の指輪に誓うよ。
この世の中で一番大切なものは、お前だと。



「夕方ここに来るって。」

咲の電話が終わり、そう告げられた。
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