君に恋していいですか?
夕方6時。


詩織はキッチンで夕食の準備をしている。

俺は咲とふたり、リビングで奴を待っていた。


「正月、実家に挨拶しに行かなきゃだな。」


そう言った俺に、咲は「あ」と言う。

「あたし、詩織ちゃん連れてったんだった。」

「は?」

…何処に。


「いやー、お母さんと電話で話しててさ、祐太朗の話になって彼女できたんだよーって言ったらさ。

また良い歳して遊びなんでしょって言うのよ。」

…実の息子に向かってなんて言いぐさだ。

「いやマジだよ、結婚の約束して指輪贈ってるもんって言ったら連れてきなさいって言われちゃって。

で、連れて行ったの。


もうさ、お母さん、詩織ちゃんのことすっごく気に入っちゃって。

咲がこんな感じに育ってくれたら良かったのに、って。」


…無理だろ、それ。


「親父は?」

「会ったよ。祐太朗を頼むって詩織ちゃんに話してた。」


…普通に考えたら逆だろ、それは。何なんだ、あのトボけた両親は。


「そっか。ならいいんだ。」

「ごめん、本来なら祐太朗がやるべき事なのにあたしがやっちゃって。」


…ま、一番大変なのは詩織の両親に挨拶する時だろう。


ピンポーン…と、インターホンが鳴る。


駆け出すように出て行く咲。

会いたかったんだろう、愛する人に。



しばらくして奴がリビングに来た。



「こんばんは。すみません、お邪魔します。」


昨日とは違う、ラフな格好。


髪もセットせず、これが奴の素なんだな。


「話があって呼んだんだ、座って。」

「はい、咲から聞きました。」


まっすぐに俺を見る目。

切れ長の、一見キツそうに見えるその真っ直ぐな目。


「俺もあなたに話があったんです。」


そう言うとその場に座り込み土下座をするような形で頭を下げた。


「すみません、妻ある身にも関わらず咲さんを振り回すような事をしてしまって申し訳ありませんでした。」


ハッキリと。

そう俺に告げ、また顔を上げた。


「順番は違ってしまったかもしれません。でも。ようやくケジメをつけることができました。
ご両親にご挨拶するより先に貴方に会って言っておきたかったんです。


咲さんを本気で愛しています、幸せにします、俺にください。」



そんな奴の言葉は、視線と同じで真っ直ぐで。
俺の心に深く入り込んできて居座った。




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