君に恋していいですか?
「ケジメがついたのか?」
「はい。今朝、離婚が成立しました。妻が…ようやく無条件でいいからと届けを提出したんです。」
へえ。どちらかといえば、浮気した方が慰謝料請求される側なんだけどな。
「少し込み入ったことを聞くが、いいか。」
「はい。」
居住まいを正し、俺を見る。
「嫁さんが浮気したんだったよな。何故調停になる。」
「それは、体裁です。彼女の家は旧家でした。離婚が娘の浮気では済まされなかった親がそうしろと彼女に言ったんだそうです。
全て弁護士任せだった上、会うことすら出来ませんでしたから。
そんな中、いきなりうちにやって来て届けを出したいと。
愛する人にこれ以上醜い姿をさらしたくない、と。」
「愛する人?」
「彼女の新しい相手です。俺じゃありません。」
そうハッキリと言う。
何故だ?愛していたから結婚したんだろうに。
「見合いで結婚しました。半ば強引に。彼女も俺も、親に振り回された。意思が弱かったんです。だから過ちを犯した。
今はお互いが愛する相手を見つけられた。だから、精算しようと。親には自分で言うから、と。」
ストン、と奴の隣に咲が力なく座り込む。
「もう…コソコソしなくていいの?」
そう言った咲はいままでに見たことがない表情で。
「ああ。ごめんな。辛い思いさせて。まるでお前が俺の浮気相手みたいに言われて…ごめん。」
何か言われたりしてたのか。
だから、大っぴらに歩き回れない、のか。
「分かった。お前が本気だってのは理解できた。」
年とか見た目とかそういう感情抜きに、唯ひたすらその人を愛する思い。
「咲、よかったな。
お前みたいなじゃじゃ馬、なかなか手綱を引ける奴いないからな。
手放すなよ。」
ポン、と肩に手を置く。
「誰がじゃじゃ馬よ!
万年発情期のエロ親父に言われたくないわ!」
…言うに事欠いてこいつは…。
「万年発情期でもちゃんと相手は決まってるからな。問題ない。」
言い切って立ち上がり、奴に…琢磨に手を差し出した。
「仲良くやろうぜ、男同士。」
その手をがっしりと握った琢磨ははぁっと息を吐いた。
「めっちゃ緊張した…」
引き上げ立ち上がらせる。
っていうか小さいな、こいつ。
「チビだな、お前。」
「チビじゃねぇし!咲と同じこと言わないでください!」
俺が、咲が、デカイのか?
「祐太朗さん、食事の支度出来ましたよ。あったかいうちに食べましょ。」
顔をのぞかせた詩織はうっすらと涙目で。
「詩織、貰い泣き?」
「え、違いますよ、違う。」
そうやって可愛く背中を向けるから。
ぎゅうっと抱きしめて囁く。
「俺の万年発情期の相手はお前だって決まってるから。」
真面目な事を言うと泣き出しそうだったから。
真面目に不真面目な事を言ってみた。