君に恋していいですか?
そうやって時間がゆっくりと過ぎて行く。



テレビでは毎年恒例のゆく年くる年をやっていて。



どこからか小さく小さく除夜の鐘の音が聞こえる。


しんしんと降り積もる雪はもう真っ白な世界を作り終えてしまっていて。


お互いの、隣に立つ愛おしい存在を確認しながら新しい一年を迎えようとしていた。



「なんか…不思議。」



そう呟き、沈黙を破ったのは意外にも詩織だった。



「わたし、今年の頭に祐太朗さんから叱られたんですよ。

【自分の打ち込んだデータで全てがひっくり返ってしまうことだってあるんだ、謝って済むと思ってるからミスをする、謝っても許されないからミスしないよう努力ってやつをヒトはするんだ。お前はヘラヘラ謝って、俺や伊島が必死になって契約してきたものをなかった事に出来るのか。】


…覚えてますか?
わたしがデータを間違って入力してしまって。
先方から話が違うとクレームがついて気が付いて。

とにかく謝ることしかできなかったわたしはひたすら謝り続けてたんです。

そんな時に…」


思わず詩織の手をギュッと握ってしまう。


「祐太朗さん、そう言ったんです。わたし、恥ずかしかった。」


その握り合った手を口元に持って行き、ふう、と息を吹きかける。


「ミスをしない努力。


わたしになかったものだったから。
あの時の祐太朗さん、怖かったけれどかっこよかった。


あの時、わたし…」

「キツい言い方したんだよな、俺は。お前に理解してほしくてさ…」


見つめ合うとお互いがふっと笑顔になる。


「データを修復して先方に届けて帰社したわたしに、祐太朗さんが笑いかけてくれたんです。


頑張って努力しろよ?って。」


そうだった。

どうすればいいかなんて何も指示しなかった。

なのに彼女は自ら打ち直した資料を先方に届け、帰社して俺に頭を下げたんだった。

「あの時の祐太朗さんかっこよかった…わたし、あの瞬間、恋に落ちた…」



え…マジ?
俺は叱ったんだぞ?

そんな男に惚れるか?


「生粋のMだわ。」


咲がハッキリとそう言った。
俺もそう思う。


「詩織ちゃん、兄貴のどこが好き?」

咲の質問に、詩織は笑顔で答えた。


「全部!」

そうか、俺もだ。


「じゃあセックスの相性は?」


ズバリ聞く咲に、詩織は真っ赤になりながらも答えた。


「わたし…祐太朗さんしか知らない…」


「へ⁉︎マジ⁉︎」

相性なんて、いいに決まってる。

何度抱いても飽きない、足りない。



「咲は…俺以外も知ってそうだな。ま、俺も人のこと言えないけどさ…」


そう呟いた琢磨。

そりゃ、咲は琢磨よりも歳上なわけで。
俺から見たら琢磨はまだまだ青二才ってとこだ。


「でも。咲が一番だ。
何もいらないって…咲だけがいればいいって思えたのは。」


そう言うと、インテリ臭い真面目な顔をくしゃっと歪めて笑った。


「これから先の人生は咲しかいらない。」


手を取り合って見つめ合う2人。


「でもさすがに祐太朗さんの前で咲にキスする勇気はないよ。」


苦笑いする琢磨の胸を押し、咲は照れながら「バカ」と、笑いながら言っていた。


108つ目の鐘が鳴る。



「あけましておめでとう。」


そして新しい一年が始まる。


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