君に恋していいですか?
俺たちの横で、詩織と菊池が話しをしている。


「池永さん、キスマーク目立ってるわよ。っていうか神山課長もタフね。さっきまでセックスしてましたーって感じよ。」

「え⁉︎ヤダっ!」


詩織が慌てて首筋を隠すもんだから、菊池はけたけたと笑った。


「やだもう、面白い!からかいがいがあるわ!」


そんなやり取りを見ていて、あれ?俺キスマークなんか見えるとこに付けてないぞ、と思い出す。


…引っ掛けやがったな。


「しかし、意外だな。お前が菊池を好きだったなんて。」


伊島に向かいそう言うと、照れたように頭を掻いた。


「課長を見習ったんですよ。欲しいものは手に入れる、気持ちをごまかさない。それだけです。」


…あまりいい見本になってない気がするな。


「で、晴れて元旦デートってわけか。いいな、そういうの。でもまぁ菊池の元カレには恨まれてそうだな。気をつけろよ?」


そう言って肩を叩くと乾いた笑い声がした。


「冗談にならないんですよ、それ。かなり揉めたんで…」


ヤブヘビだったのか。すまない。
苦笑いしか出来ずに無言になっていると、菊池があっけらかんと言い放った。


「智は気にし過ぎよ。そんなに気に病むならあたしと付き合いたいなんて言わなきゃよかったでしょ。」

文字通りの「仁王立ち」で菊池に諭される伊島。

菊池ってこんなキャラだったのか。

…Sだな、モロに。

「それはそうだけど!俺は」
「言い訳しない。あたしは智を選んだの。何か文句ある?」


そう言い切る菊池の目は揺るがないほど真っ直ぐで。

「あはははは!いいな、お前らって!」


もしも俺があと10歳若くて伊島と変わらない歳だったら、不安で仕方なかっただろう。

だけどもういい加減いい歳だから、落ち着いてるように見せてるだけ。


「伊島、尻に敷かれた方が幸せになるぞ。よかったな。」

オロオロしている彼の姿に自分を重ねる事はないけれど、気持ちは痛いほどわかるから。



「じゃあわたしも祐太朗さんを尻に敷かなきゃね?」


それまで黙っていた詩織がそんな事を言うもんだから。


みんなで笑いあって場が和んだ。
詩織はMだから尻に敷くなんてのは無理だろうな、多分。


「帰ってきたらまた飲みましょうね、課長…じゃなかった、部長。」

「おぉ、楽しみにしてるよ。お前の仕事振りも。」


握手してその場を離れた。



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