君に捧げる物語
塔の中での生活は突然終わりを告げた。

小さなほころびから生じた戦が、国を大きく傾けた。

王が倒れ、滅びかけたこの国を救ったのは、君の策だった。

この狭い塔の中で生きた君が、玉座に座り国を治める。

正しく軌道に乗り出したこの国の王に君はふさわしく、そして僕は悟った。

あの狭い塔の中でだけ、僕らは自由で、そして共にいることが許されたのだと。

『どうして!どうして出ていくなんて言うのです!?約束したではないですか?ずっと、一緒にいるって』
泣かせたかったわけではなかった。

でも、君には大きな後ろ盾が必要で。

僕がいたら、君は“正しく”選べないから。

『私は、何もいりません。先生がいてくれたら、それでいいのです』

そう言って僕に抱き着く細い腕を、肩を、抱きしめて守ってあげられたらどれほどよかっただろう?

『愚だと思いますか?国なんてどうでもいい。私は、ただ先生に褒められたかった……。それだけなのに』

僕も君と同じ気持ちなのだと言えたらどれだけよかっただろう?

でもそれは、許されないことだから。

せっかく外に出られた君を“災いの姫”に戻したくない。

これは、僕のエゴだ。

『国王陛下に、幸多いことを願っています。離れても、忠誠はあなたに』

大きな瞳から流れる涙を拭ってやることも僕にはできない。

僕は目を開けて君の姿を焼き付ける。

『いかないで!!』

僕は君を振りほどいて歩き出す。

世界で一番大切な君の、いるべき場所を守りたいから。

どれだけ遠くに離れても。

たとえ君が僕を嫌いになったとしても。

僕は、君を想って生きていく。

何も持たない僕が、君に唯一捧げられるものがあるならそれはきっと。

君を“愛している” この気持ちだけだから。

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