ブルースプリングの心臓
「む、無理だよ。だってあたし、シンと違って頭そんな良くないし」

「それなら、俺が勉強教える」

「な、そ、それにあたし、東京だなんて都会で生きていく自信な……」

「俺がいるだろ」



弱気なあたしの言葉たちを、シンは淡々とはねつけていく。

う、と反論できなくなったあたしは、またうつむいて、桜餅に視線を落とした。



「だ、だめだよ、シン……あたしは、ここを離れらんな……」

「──芽衣子」



ぎゅっと、あたしの手を握りながら。

降ってきた声に、弾かれたように顔をあげた。

そこには、やけに真剣な表情をした、シンの顔があって。


……ああ、いつも、そうなんだ。

彼が、『芽衣子』と、あたしの本名を口にするとき。

あたしがお母さんとケンカして意地を張っていたときも、彼と遊びに出掛けて、まだ帰りたくないと駄々をこねたときも。

シンのこの落ち着いた声に、あたしのかたくなな心は、じわりと溶かされてしまう。
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