ブルースプリングの心臓
「なあ、芽衣。3秒だけ、目ぇつぶって」

「へ?」



彼の言葉にぱちぱちと瞬きをした後、あたしは少しだけ、彼から体を逸らした。



「や、やだよ。そうやって前、あたしの顔に蛙くっつけようとしたじゃん」

「いつの話してんだよ。いいから、目ぇ閉じろって」



シンは頭もいいし同年代の男子たちに比べたら大人っぽいけれど、実は結構イタズラ好きな一面もある。

身の危険を感じて拒むあたしに、シンはまたぎゅっと、握った手に力を込めた。



「大丈夫だから、芽衣」

「だ、大丈夫って……一体、な、何すんの」

「──世界が、変わることだよ」



ぱちくり。思わず、彼の目をまっすぐに見つめる。

シンの手に抵抗していた力を、少しだけ緩めた。



「……せかい?」

「そう。ほら、目ぇつぶって」



再三の彼の言葉に、あたしはおそるおそる、だけどもようやくまぶたを下ろした。

視覚が奪われたことによって、雨の音や桜餅の甘い匂いが、鮮明に伝わってくる。
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