今宵、真夜中の青を注いで


あたしには持っていない、好きなものをちゃんと持っている人。

勉強は全部中の中だし、運動も特別得意じゃない。

ピアノも練習が嫌でやめちゃって、部活は仮入部の時にいろいろ覗いてみたけどイマイチピンとこなくて帰宅部。

趣味と言える趣味なんてなくて、夢中になれることなんて何一つない。

だからこそ、そういうものを持っている楓や夜久君は羨ましい。

夜久君が星を好きなことはおかしなことじゃないよって、暖かい言葉をくれたお返し。


「碧海は好きなもの、ないわけ?」


少しの沈黙の後、少し難しい顔をして夜久君がそう言った。


「うん、夢中になれるほど好きなものって出会ったことないなあ」

「じゃあ、好きなものに出会う旅の途中だな」

「好きなものに出会う旅の途中?」

「そ。今はまだ、探しものが見つかってなくても焦らなくていい。いつかふっと近くにある。

探しものが見つかるまで、まだ一番好きなものに出会える喜びがあるんだって、たくさんのものに出会って楽しめばいい」




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