今宵、真夜中の青を注いで
「言われた通り来たら修羅場だし、女の勘怖すぎ。あと、泣くの耐える為に唇切れるほど噛みしめるなよ。手だってあんなに握り締めてたら爪の痕絶対ついてるだろ」
少し悲しそうに手を伸ばして、あたしが先程まで握りしめていた手を取り掌を見る。
『ほら』と爪が食い込んだ痕が結構残ってる。
それは全てお見通しだよ、と言われてるようだった。
「怖かったよな。次はこうならないように気をつけるから」
穏やかで優しい、包み込むような心地良い声がすとんとあたしの胸に落ちてくる。
そうだ、さっきまであたしすごく怖くて動けなくて、どうしていいか分からなくて、なんであたしがこんな目に合わなくちゃならないんだろうって泣きそうだった。
でも、夜久君が突然風のように現れて、あたしを連れ出してくれたからすっかり恐怖は消えたと思ったのに、なんでだろう?
気遣いに溢れた言葉が大きすぎて、心が揺さぶられる。
視界が、ぼやける。
「夜久君は優しすぎるよ」
普通に言ったつもりだったのに、思ったよりあたしの声は弱々しく震えたものだった。
夜久君はなんでそんなに優しくしてくれるの。
もう先輩に何されても絶対泣かないんだって思って言い返したのに、とても簡単なことであるかのように助けてくれた。