今宵、真夜中の青を注いで


少し残念に思いながら『こんばんは、丘では久々だね』と言って、なんでもない風を装って隣に座った。


「ああ、最近は天気悪かったからな。今日は晴れてよかった」


無邪気に笑う姿を見て、急に心臓を掴まれたみたいだ。

最近のあたしはいつもこんな調子で、夜久君に変に思われてないかとひやひやする。

何も言われていないから、きっと大丈夫だと何度言い聞かせたことか。

あれ、本当に緊張してきたかもしれない。

喉が渇いて気持ち悪い。

心臓も煩いくらいに忙しなく動いてる。

そう言えば、こういうのっていつ言えばいいんだろう?

楓には勢いよく告白するって宣言しちゃったけど、今すぐ言って振られたらすごく気まずい。

いつもの勢いに任せた考えなしを発揮した自分の馬鹿さ加減を呪った。

どうしよう、どうしようと焦りばかりが募る。

ええい、あたしはどうせ考えるのは苦手なんだから行動あるのみ。

夜空に向けていた目線をばっと夜久君の方にやるとばっちり目が合った。


「夜久君」

「碧海」


重なった互いの名前。

すぐに落ちる沈黙。

まさかこんなタイミングで互いに話しかけるとは思わなくて、緊張がふっと解けた。



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