今宵、真夜中の青を注いで


困ったような顔をしてあたしの涙を掬い取った夜久君を見て、漸く気付いた。


「なんで泣くんだよ」

「ごめん、嬉しくて」


人って嬉しすぎると本当に涙が出るんだって初めて知った。

夜久君はいつも宝物みたいな言葉をくれるね。


「あたしもね、夜久君のことが好きだ...ひゃっ!?」


あたしも同じ気持ちだと伝えたくて言葉を言い終える前に、夜久君の腕が伸びてきてその中にあたしは収まった。


「俺も嬉しい。これで抱きしめられる」


耳元で擽るように囁いた甘い言葉に、 分厚い服越しでも伝わる夜久君の身体の熱に、頭がくらくらする。


 少しだけ腕の力を緩めて夜久君とあたしは見つめ合う体勢になる。


「抱きしめるだけでいいの?」


零れるように口にしていた言葉は無意識だった。

空気を震わせて音になってから自分の言ったことを理解して、恥ずかしくなった。

こ、こんなことを言うつもりじゃ......。

焦って弁明しようとしたけど遅かった。

気付いた時には夜久君のそれがあたしのそれに撫でるように触れた。

固まって動けないあたしを余所に、夜久君がそっと離れる。


「ははっ、自分で言ったくせに顔真っ赤」

「ち、ちがっ、こここれは、キスしてほしいって言いたかったわけじゃなくて......」

「嫌だった?」


なんて意地悪な質問なんだ。

こんなの絶対嫌じゃないって言わせる為のものなのに。



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