朝霧の森から
第一章 彼の背中
───エレベーターホール。
視線の先には見慣れた背中。
私は少し後ろから人影の隙間をぬって、その姿を眺める。
広いその背中を見るだけで私の気持ちは浮き足立って、いつも鼓動が早くなる。
朝とはいえ少し汗ばむ陽気に、うんざりしているのが後ろからでもわかる。
だって一人だけ背広の上着を肩にかけて項垂れてるから。
見かけによらず暑がりなのよね。
……あのストライプのシャツ。実は私のお気に入りだ。
きちんとクリーニングに出してるんだろうな。パリッとしている。
ベルトと靴は同系色で合わせ、時計はオメガ。
薄茶色の髪はウェーブがかかって柔らかそう……。
でも、ところどころハネてるし。
そんな後姿を見ながら、心の中で独り言。
これもいつもの習慣。