これが、最初の手紙です。
『結婚してください。』
とっさに出た言葉らしく、その後は面白いぐらい慌てていた。早恵は、その様子がなんだか愛おしくて、『はい。』といつの間にか答えていた。


そして、彼は丸い目をもっと丸くして、驚いてから棚の中から小さい箱を取り出してきた。
今度は、早恵が驚く番だ。『婚約指輪だよ。』何も準備してないんじゃなかったのか?というと、『もともと、結婚したいと思ってたけどまだ早いって思うかなと思った。』とはにかんだ笑顔で頭をぽりぽりとかいた。
その後、あっと声をあげて、『こういうのって、ちゃんとしたデートで、ちゃんとした格好のときに言うんじゃ…!』と言った。
確かに2人とも部屋着という、くつろぎ状態であったのだ。

彼との結婚は自然と、受け止められ、激しい感情ではないが、幸せを噛みしめていた。


その後の、両親への挨拶では背広に値札を着けっぱなしできて、早恵の両親との食事は笑いの渦になった。

ー…

これは、悪夢だろうか…
いつの間にか、手に力が入っていたらしい。
晶からの手紙は、手で持っている場所がシワが入っている。

冷水を浴びせられたとは、まさしくこのことだろう。
彼の、優しく温かみのある文字もその文章の冷たさを覆い隠し切れていない。

これは、悪夢だろうか…
夢であってほしい…
早恵は、そのままただただ呆然と手紙を見つめている。
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