金色・銀色王子さま
夜中とあって騒がしさもなく、人もあまりいない。
大した事件でもなさそうだと、バイクを押しながら徐々に近付いていくと見覚えある顔がいる。


「おー片桐くん!!」


大家さんだった。最近、奥さんにばかり遭遇していたから旦那さんに会うのは久しぶりだった。
軽く会釈をして早速聞く。


「なんかあったんですか?」


「ここ何日か、変なヤツがうろうろしてたらしいんだけどさ、あのー2階の、秋に越してきた子いるでしょ?あの子が襲われたんだよぉー」



「2階って…藤井…」

「あーそうそう!ワシが寝ようとしたら悲鳴が聞こえてね、外出たら男が藤井さんにこう、抱きついててさぁーびっくりしたよぉー」

大振りのジェスチャーで説明をしてくれたが、龍之介の視界にはもう届かない。
ヘルメットを置き、バイクの鍵を取り出す。 

「………で、あいつは?あいつはどこに?」


「さっき事情聴取終わって部屋に戻ったところだよ。ワシも色々聞かれて眠いんだけど…」



龍之介はバイクをそのまま入口に止めると、階段通路まで走り駈け上がった。
女性警官が丁度降りてくるところを会釈して通り抜け、自分の部屋ではなく麻衣の部屋のインターホンを鳴らした。





ピンポン!ピンポン!




「…………っ…!」



ドンドン!






「おい!大丈夫かっ…!?」



ドンドン、ドンドン!!







「大丈夫か?!麻衣!!」






息を切らしながら冷たい扉を叩いた。
すると小さく、カチャっと鍵が開く音が聞こえた。


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