金色・銀色王子さま
本当は、恐くて。
暗闇の中いきなり後ろから目隠しをされて、反射的に動いた体はよろけて膝から前に倒れた。


膝に激痛。手に痛みと、見えない視界。
耳にかかる見知らぬ男の荒い鼻息と声。
あのときは何も考えられなかった。
気持ち悪さに耐えられず、ただ叫んでいただけ。
大家さんが居なかったと思うと…事情聴取受けている間そんなことを振り返ったら恐怖が蘇ってきた。
私は大丈夫だと…遭遇しても強気でいられると思っていた。
でも実際は叫ぶだけで精一杯だった。







煙草の匂いが鼻を掠めてハッと我に返る。


「あっ、ご、ごめんっ…仕事終わって帰ってきたとこなのに…もう、平気だから」


「手当する」

「え?!」


片桐は自分の部屋を空けるとそっと麻衣の背中を押して招いた。







片桐の部屋に入るのは初めてだ。
想像より遙かに物が無く、あるのはソファーとテーブル、ベット。
観葉植物に、なぜかテディベア。



靴を脱ごうとしたが、真っ赤に血で染まった膝が痛くて手間扱いていると片桐はひざまづいて靴を脱がせてくれた。


「あっ、ちょっ」


「重いけど今日だけ許す」


有無を言わさず麻衣の体を抱え上げると、ソファに座らせた。
一言余計だけど今は何も言えない。




「…片桐、大丈夫だから。子供じゃないしそんな…」


「このままで帰せるかバカ」



片桐は引き出しから絆創膏、そして消毒液を取り出すとなれた手つきで麻衣の膝を消毒してくれた。


「…くぅーっ染みるー大人になっても染みるーっ!」


「はっ、子供かよったく…」


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