へたれ王子



…どういうことだ?


そう思って首を傾げる俺に、田中先生が俺を見ずに言う。



「実はあたしね、夏野さんがお気に入りなの」

「!!」



は…?


田中先生の突然のそんな言葉に、俺の頭が一瞬真っ白になる。

茉友ちゃんがお気に入り?=好き?


え、いや、何言ってんのこの先生!


そう思って俺が変なことを考えていると、田中先生が慌てた様子で言った。



「あっ、別にお気に入りってのは、一人の生徒としてって意味で、そんな変な意味じゃなくてねっ…」

「じゃあ何なんですか」

「…」



俺がそう聞くと、田中先生は少し黙ったあと言う。



「…似てるんだ」

「?」

「夏野さんは、学生の時のあたしにほんとそっくりなの、」

「!」



…茉友ちゃんが…田中先生に!?



「だから夏野さんを見てると、昔のあたし自身を見てるみたい。
あたしもね、今は違うけど昔は本当に周りに“地味”って言われまくってたんだから」

「…それが、何で俺と茉友ちゃんが釣り合ってないっていうふうにつながったんですか?」



そう問いかけたら、田中先生が言った。



「あたしね、好きな人がいたんだ。星河くんみたいな、本当にカッコいい人」

「!」

「周りの女子に本当にモテて、あたしなんか相手にしてくれるわけないって、
いつも思ってた。だから今でも後悔してるんだ。
だけど、夏野さんは簡単に星河くんと付き合えたじゃない。
だから、本当はあたしとは全然違うのかなぁって思ってさ、」



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