へたれ王子
…すると、その瞬間…
「おい」
「!」
「茉友に謝れよ、」
すぐ傍で話を聴いていた菊池先輩が、低い声で香菜さんにそう言った。
“茉友”
そんなふうに呼び捨てにされるから、こんな時でも思わずドキッとしてしまう。
「…な、何怒ってんの、」
そんな菊池先輩に香菜さんはビビッている様子だけど、
菊池先輩の表情は全く変わらない。
「可愛くない?いやふざけんなよ、可愛くないのはお前のその言葉だろーが、」
「!」
「茉友を傷つけるのだけは許さないから。茉友に謝れ、」
菊池先輩はそう言うと、あたしの手を掴んで菊池先輩の隣に来させる。
するとあたしは香菜さんと向かい合わせになって…
「…ごめんなさい」
香菜さんは、あたしの目を見ずに、だけど素直にそう謝った。
「…行こ、茉友ちゃん」
「!」
そして菊池先輩はそう言って、そのままあたしを連れてその場を後にする。
ふいにあたしが後ろの香菜さんを見ると、やっぱり心なしか納得のいっていないような顔をしていて…。
だけどまた前を向くと、その時菊池先輩の背中が少し大きく見えた。
…これが星河先輩だったら、どうしてたんだろう…。