へたれ王子
「え、もう?」
菊池先輩は自身の腕時計を見てそう言うけど、
あたしはさっき雑貨屋で買った星河先輩へのプレゼントを見せて言う。
「だって、目的のものはちゃんと買いましたから、」
「…そっか。そだね」
一瞬、ほんの一瞬だけ菊池先輩の表情が曇った気がしたけど、
あたしはまた「気のせいか」と菊池先輩に背を向けた。
「あれ、送ってくのに」
そう言ってくれたけど、さっきから妙にドキドキしているあたしの心臓がうるさいから、
あたしはこれ以上菊池先輩といるのを断ってしまう。
「いいんですよ。独りで帰りたい気分なんです」
「…そう、じゃあ気をつけて帰ってね」
「はい。では、また明日」
「ん、バイバイ」
あたしは手を振ってくれる菊池先輩にぎこちなく手を振り返すと、
先輩に背を向けてその場を後にした。
「…~っ、」
…大丈夫。
星河先輩と菊池先輩は違うから、慣れないだけ。
全然、気にしてない。
そう言い聞かせるあたしの後ろで、
菊池先輩があたしの姿が見えなくなるまで見送ってくれていたとは知らずに、
あたしは星河先輩へのプレゼントを大事に抱えてその場を後にした。