へたれ王子
茉友ちゃんを引き留めて何を言うとか、何をするとかは全く考えていないけど、
気が付けば心より体が先に動いていた。
だからか腕を掴んだはいいものの、なかなか次の言葉が出てこない。
どうしよう…どうしよう、俺。
しばらくそう考えていたら、やがて茉友ちゃんが言った。
「あ、あの…腕、」
「!!…あぁ、ごめんっ」
「…」
茉友ちゃんがそう言うのを聞くと、俺はすぐにその手を離す。
でも…
「では、あたしはこれで」
茉友ちゃんは急いでいるのか俺の方を見ずにそう言うと、また走ってその場を後にしようとした。
だけどそれでも行ってほしくなかった俺は、今度は言葉だけで茉友ちゃんを引き留める。
「茉友ちゃん、何かあった?」
「!…え」
「…あ、いや…なんか、そんな気がしたっていうか…」
俺が自身の頭をちょっと掻きながらそう言うと、茉友ちゃんはまたその場に立ち止った。
すると、その時にやっと気が付く。
茉友ちゃんの体がかすかに震えていることに。
その姿を見て、改めて確信した。
何が起こったのかわからないけど、茉友ちゃんの身に何かが起こったのは確かだ。
…でも、いいのかな。
元カレである俺がそんなことを聞いても。