へたれ王子



茉友ちゃんを引き留めて何を言うとか、何をするとかは全く考えていないけど、

気が付けば心より体が先に動いていた。

だからか腕を掴んだはいいものの、なかなか次の言葉が出てこない。


どうしよう…どうしよう、俺。


しばらくそう考えていたら、やがて茉友ちゃんが言った。



「あ、あの…腕、」

「!!…あぁ、ごめんっ」

「…」



茉友ちゃんがそう言うのを聞くと、俺はすぐにその手を離す。


でも…



「では、あたしはこれで」



茉友ちゃんは急いでいるのか俺の方を見ずにそう言うと、また走ってその場を後にしようとした。

だけどそれでも行ってほしくなかった俺は、今度は言葉だけで茉友ちゃんを引き留める。



「茉友ちゃん、何かあった?」

「!…え」

「…あ、いや…なんか、そんな気がしたっていうか…」



俺が自身の頭をちょっと掻きながらそう言うと、茉友ちゃんはまたその場に立ち止った。


すると、その時にやっと気が付く。

茉友ちゃんの体がかすかに震えていることに。

その姿を見て、改めて確信した。


何が起こったのかわからないけど、茉友ちゃんの身に何かが起こったのは確かだ。



…でも、いいのかな。

元カレである俺がそんなことを聞いても。



< 257 / 323 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop