へたれ王子
そんなことを思いながらも、しばらく茉友ちゃんの言葉を待つ。
何を言うのかドキドキしていたら、やがて茉友ちゃんが俺に顔を背けたまま、自身の右手で目元を擦った。
「…?」
何をしてるんだろう?
一瞬、そう思ってわからなかったけど…茉友ちゃんが鼻をすすった瞬間やっとわかった。
茉友ちゃんが、泣いてる。
「茉友ちゃん…?」
俺がそう囁いて近づこうとしたら、茉友ちゃんが涙声で言った。
「…すいません。用事あるんで、あたし行きますね」
「!」
茉友ちゃんはそう言うと、再びそこから歩き出した。
「…っ」
その後ろ姿を、へたれな俺は黙って見送る。
でも、足りない頭で一生懸命考えてみた。
このままでいいのか?
もうチャンスはないかもしれない。
でも、茉友ちゃんを振ったのは俺だ。
今更近づくのはオカシイ?
いや、だけど考えてみろ。茉友ちゃんは泣いてる。
俺じゃ力になれないかな?
本当に黙って見送ってていいのか?俺…。
…─────いいわけない。
「茉友ちゃん!」