へたれ王子
俺は意を決して茉友ちゃんの傍に駆け寄ると、彼女の前に回り込んでやっと顔を合わせた。
振ったのにオカシイのかもしれないけど、少しでも茉友ちゃんの力になりたいから。
俺がそうすると、茉友ちゃんは少しびっくりしたようにして自分の顔を隠した。
でも俺はそんな茉友ちゃんの顔を隠す手を無理矢理に退けて、茉友ちゃんを見る。
「!」
「…っ」
するとやっぱり茉友ちゃんは、泣いていた。
顔を赤くして、珍しく眼鏡はしていなくて、涙をぼろぼろこぼして泣いていた。
「…何があったの?」
その傷ついたような表情に、俺まで心が痛む。
誰が茉友ちゃんをそんなに傷つけたの?
そう思ってビックリしながら茉友ちゃんの言葉を待っていたら、やがて観念したらしい茉友ちゃんが言った。
「…菊池先輩に、」
「菊池君に…?」
もしかして、喧嘩したとか?
そう思っていたけど、その答えは俺の予想をはるかに超えていた。
「また…襲われかけて、ビックリしちゃって…」
「!?」
「今…必死で逃げてきたんです、」
俺はその言葉を聞くと、掴んでいる茉友ちゃんの腕をそっと離す。
ビックリしすぎて声が出ない。
また、襲われかけた…?
何でだよ、菊池君。
好きだから?
…俺だったらそんなこと出来ないけどな。