へたれ王子
後ろから、ふいに菊池君に呼び止められた。
その声に、何だ?と思いながら振り向くと、菊池君がそんな俺に言う。
「…茉友のことなんだけど」
「?」
「茉友を傷つけた俺がこんなことを言うのもオカシイってわかってる。
でも、友希には今後一切茉友に近づかないでほしい」
「!!」
「……ごめん、いきなりこんなこと言って。でもどうしても不安だから、約束して?」
菊池君はそう言うと、不安げに俺を見た。
一方の俺はその突然の言葉に、心の奥が嫌な音を立てる。
…でも、「嫌だ」って言うわけにもいかない。
そもそも、菊池君に茉友ちゃんを譲ったのは、他でもないこの俺だから。
俺はそう思うと、精一杯の笑顔を作って言った。
「…わかったよ。っていうか、そんな不安がんなくたって、俺は二人の邪魔なんかしないのに」
「それは…そうかもしれないけど」
「うん。まぁでも…近づかない、ようにするよ」
「お願いね」
俺の言葉に菊池君はそう言ってやわらかい笑みを浮かべると、また俺に「じゃあ、明日ね」って手を振る。
俺もそんな菊池君に手を振り返すと、ようやく菊池君の家を後にした。
…何か、いつも以上に疲れてしまった。
帰って少し寝よう、