へたれ王子
茉友ちゃんは涙声でそう言うと、両肩に置かれてある俺の両手を自身から離す。
…どうしていいかわからない…?
予想外の返事に俺が目を泳がせていたら、茉友ちゃんは、
「本当に、ごめんなさいっ…」
そう言って、逃げるようにその場を後にしてしまった。
…茉友ちゃん…。
その背中を見つめていると、思わず深いため息が出る。
出来れば追いかけたいけど、それは無理だ。
今の俺にはそこまでは出来ない…。
きっと茉友ちゃんは、菊池君のことを信じたいけど信じられないでいるんだ。
俺が首を突っ込んでいいのは、どのあたりまでなのかな…。
俺は慣れない恋にそう思って俯くと、茉友ちゃんに続いて校門を抜けた。
・・・けど、俺はこの時全く知る由もなかった。
この茉友ちゃんとのやりとりを、田中先生にしっかりチェックされていたなんて…。
茉友ちゃんのことばかりを気にかけていた俺は、全然気が付かない。
「っ…消してやる、アイツなんか」
田中先生は独りそう呟くと、泣きながら帰っていく茉友ちゃんを鋭く睨み付けた・・・。