へたれ王子



茉友ちゃんは涙声でそう言うと、両肩に置かれてある俺の両手を自身から離す。


…どうしていいかわからない…?


予想外の返事に俺が目を泳がせていたら、茉友ちゃんは、



「本当に、ごめんなさいっ…」



そう言って、逃げるようにその場を後にしてしまった。



…茉友ちゃん…。



その背中を見つめていると、思わず深いため息が出る。


出来れば追いかけたいけど、それは無理だ。

今の俺にはそこまでは出来ない…。


きっと茉友ちゃんは、菊池君のことを信じたいけど信じられないでいるんだ。

俺が首を突っ込んでいいのは、どのあたりまでなのかな…。



俺は慣れない恋にそう思って俯くと、茉友ちゃんに続いて校門を抜けた。






・・・けど、俺はこの時全く知る由もなかった。

この茉友ちゃんとのやりとりを、田中先生にしっかりチェックされていたなんて…。

茉友ちゃんのことばかりを気にかけていた俺は、全然気が付かない。



「っ…消してやる、アイツなんか」



田中先生は独りそう呟くと、泣きながら帰っていく茉友ちゃんを鋭く睨み付けた・・・。




< 285 / 323 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop