へたれ王子
「…なので、凄く申し訳なくなって謝りに来ました。
菊池先輩は浮気なんて全然してなかったのに、あたしが勝手に不安になっちゃって…」
あたしはそう言って頭を下げると、再度「すみませんでした!」とハッキリ謝る。
すると菊池先輩はしばらく黙っていたけど、やがて口を開いて言った。
「…まぁ、誤解が解けたんなら良かったよ」
「!」
「それに俺だって茉友に酷いことしちゃったし、どっちもどっちでしょ」
菊池先輩はそう言うと、「だから、そんなに自分を責めないで」って優しく微笑む。
…菊池先輩…。
そんな先輩を前に、あたしは思わず泣きそうになってしまう。
それでもまだ言わなきゃいけないことがあって、それを思い出すとあたしは口を開いて言った。
「…あの、それと菊池先輩…もう一つ、」
だけど…言いかけた途端、菊池先輩が言った。
「待って」
「!」
「それ、言わなくていい」
「え、でも…」
「大丈夫、わかってるから。もう聞きたくない。ごめん」
「…、」
菊池先輩はそう言うと、あたしから顔を背ける。
…あぁ、菊池先輩は見抜いてるんだ。
あたしはそれに気づくと、
「…すみません、菊池先輩」
静かにそう言って、静かに菊池先輩の部屋を後にした。