へたれ王子
すると、倉庫に入ってきてあたしを見た星河先輩が、びっくりしたようにあたしに言う。
「え、茉友ちゃん…泣いてる?」
「!」
恐怖で未だ涙が止まっていないあたしを見て、星河先輩は一瞬固まっていたけど、やがてその視線を菊池先輩にやって言った。
「…菊池君」
「…」
「茉友ちゃんに何したの、」
「…まだ何もしてないよ」
「“まだ”?」
菊池先輩のそんな言葉に、星河先輩がすたすたと菊池先輩に近づく。
「お前な、茉友ちゃんに触るなってあれほどっ…!」
「!」
何か…星河先輩怒ってる?
そんな星河先輩を見て、マズイと思ったあたしはすぐに星河先輩に言った。
「だっ大丈夫です、星河先輩!」
「…え?」
菊池先輩を庇うつもりではないけれど、さっき菊池先輩に助けてもらったのは事実だし。
怖かったけど、あたしは星河先輩の腕を掴んで言った。
「な、泣いてたのは菊池先輩に何かされたとかじゃなくて…。相談に、のってもらってたんです」
「!…え、」
「だから、そんなに怒らないでください。あたしは、大丈夫ですから、」
あたしがそう言うと、星河先輩はあたしと菊池先輩を何度か交互に見て、やがて言った。
「…茉友ちゃんがそう言うなら、今回は許すよ」