へたれ王子
でも…
“デートの約束とかしないの?それか、どっか寄り道して帰るとか…”
「…」
さっき菊池先輩から言われた言葉が、脳裏を過る。
…本当は、恋人らしいこともしてみたかったりして。
そんなことを考えていると、そのうち星河先輩が言った。
「じゃ、じゃあ帰ろう、茉友ちゃん」
「はい、」
そう言って、菊池先輩をそこに残して二人でその場を後にした。
菊池先輩 side
二人がいなくなった後、俺は独りマットの上に倒れこんだ。
「…はぁ…、」
そしてその直後に思い出すのは、さっき茉友ちゃんが発した言葉…。
“…先輩、嫌です。離れてくださいっ…”
“な、泣いてたのは菊池先輩に何かされたとかじゃなくて…。
相談に、のってもらってたんです”
“だから、そんなに怒らないでください。あたしは、大丈夫ですから”
「…っ、」
自然に熱くなる自分の頬を、両手でそっと覆う。
あの瞬間、誰も知らない心が確かに生まれた気がした。
…いや、まさか。嘘だろ?俺…
茉友ちゃんを、
本気で好きになったなんて…。