へたれ王子
茉友 side
体育館裏倉庫から少し離れると、ふいに星河先輩が立ち止まってあたしに言った。
「茉友ちゃん、」
「は、はい」
どこか怒っているようなその声にびっくりして顔を上げると、星河先輩が真剣な顔であたしに言う。
「俺さ、言ったよね。菊池君にはむやみに近づくなって」
そう言って、真っ直ぐにあたしを見つめる。
その言葉に、あたしは申し訳なく感じて小さな声で謝った。
「…ご、ごめんなさい」
あぁ…やっぱり星河先輩、怒ってる。
って、そりゃそうだよね。
あたしは、星河先輩の注意をきかなかったんだもん。
あたしが謝ると、星河先輩はため息混じりにあたしから視線を外して言った。
「…ま、今回は大丈夫だったみたいだからよかったけど。次は本当に気をつけな?
たまたま今日はこうやって助けに行けたけど、次…本当に誰も来ないかもよ?」
「!!」
星河先輩はそう言うと、またふいにあたしに視線を遣る。
一方のあたしは、思わぬことを言われてさっきのことを思い出し、思わずまた涙ぐんでしまった。
「…っ、」
あぁ…泣きたくないのに。勝手に涙が出てくる。
あたし、こんなに涙もろかったっけ?
しかし、そんなあたしの突然の涙にびっくりしたらしい星河先輩が、慌てた様子で言った。