ラッキーセブン部
第九話 吉田先生の賭け
第九章 吉田先生の賭け

「お前ら、俺と賭けをしないか?」

吉田先生はいきなり部室に現れ、俺達にそんな事を言った。

「…賭けって…何ですか?」
「一週間後、お前らは何があるか知ってるか?」
「実力テストですね…」

俺達が1年間のうち一回はやる行事のようなもの。自分の実力や順位が分かる。俺は順位などあまり気にはしていないが。

「そうだ。それで賭けをしないか?この部にいる全員が100位以上ならこの部を学校の方で公認し、俺が顧問になってやる」
「…ひゃ、100位?!」

吉田先生の言葉を聞いて、隼一は驚きの声をあげた。実力テストで100位以内…俺にとってはどうという事はない賭けだが…やっぱり、全員が100位以上を目指すのは大変な事か…。特に隼一は…。

「…賭けをするかしないかは正弥次第だ。良い答えを待ってる…」

吉田先生は含み笑いを浮かべながら、その場を去っていった。
これまで、笹井先輩のおかげで居残ってここで活動する事が出来たが…吉田先生はもう、俺達をここで活動させる気はないみたいだ。だけど、俺もこの集まりを離散するつもりは全くない。

「正弥…どうする?賭けるの?」
「一応…聞くが…皆、何位だ?」
「私は学年1位よ…」
「俺は120位」
「…俺は98位です」
「…に、200位…」

低い…笹井先輩以外、皆、低い。想像はしていたが…。やっぱり、勉強は難しいのか…。

「というか、栄!お前、地味に100位以内に入ってないじゃん!」
「…うるさい!まだ、俺は何とかなるかもしれないけど、隼一なんか200じゃないか!」
「先輩達、落ち着いてください。賭けなんかしなければ良いと思うんですけど…」
「確かにその通りだが、俺はこの部を普通に活動させたい…だから、俺は吉田先生の賭けに受けてたちたいんだ」
「だけど、皆、点数がよくないんだから、無理じゃない?」
「俺と笹井先輩で何とか出来ないですかね…」

俺がそう問うと笹井先輩は俺の事をジッと見つめてから、口を開いた。

「まぁ…こいつらのやる気があるなら、教えてあげても良いわよ。一週間みっちりね」
「あります!大アリです!」
「ありがとうございます。笹井先輩」
「…一石二鳥になるなら、教えてもらう」

皆のやる気も充分…みたいだな。これなら、一週間でどうにか出来る…かな?

職員室に行くと、吉田先生はもう帰る身支度をしていた。残業などはないのだろうかなどと疑問を抱えながら俺は職員室のドアを叩いた。俺達の姿をみると満面の笑みでこちらにやってきた。

「賭け…するのか?」
「しますよ。全員、100位以内に入ってみせます」
「そうか。じゃあ、お前らが負けた時は生徒会の仕事、手伝ってくれよ。卒業するまで」
「え?そんな話は聞いてな…」
「じゃあ、頑張れ」

吉田先生はスキップをしながら一瞬にして、俺達の前から姿を消した。

「今日の先生…機嫌が良いんですかね?」
「気持ち悪いぐらいにそうみたいだな…」
「さてと、私達はこれから、どうするの?」
「正弥ん家で勉強する?」
「俺の家は駄目だ。おじさんが、来てるから」
「じゃあ、栄先輩の家ですか?」
「親がいる時じゃないと無理だから、今日は無理」
「…俺の家も無理ですね。家が狭すぎます…笹井先輩の家なんて、絶対、行けないし…」
「…じゃあ、俺の家に来るか?」

真面目な顔でそう提案してきたのは隼一だった。隼一もいざという時は勉強するのか…。

「あ、あんたの部屋…で勉強するの?」
「選択肢がないなら、隼一の部屋に決まりだな」

隼一の家がおんぼろアパートだとしても、勉強が出来るならどこでも良い…。今は、一分一秒が大切だ。それに、隼一のアパートは学校から近いから何の問題もない。

…と言って来たものの…。本当におんぼろアパートだよな。他の人が住んでるのかも分からなくて怖いよ。笹井先輩も言葉を失ってるし…。やっぱり、図書館辺りにしとくべきだったか。

「んじゃあ、ちょっと、そこで待ってて」

隼一はそう言うと部屋に入っていった。少し開いた時に部屋の中を見てみたが、汚くはなかった。

「…こんな所に住む高校生って本当にいるのね」
「…仕方ないんだろうね。俺らとは違うから…」
「違うわけないだろ。むしろ、同じだろ?人それぞれ悩みはあるんだから」

ガチャ

そんな会話をしていると、隼一は静かにドアを開けた。

「…どうぞ」

今の会話、聞こえたのか?ちょっと、テンション低いみたいだけど。

玄関を開けるとすぐに6畳くらいのリビングが見え、必要最低限の物が置いてあった。キッチンには、小さい鍋が一つあるだけだった。これが不良の部屋なのか…?もっと、やばい物があるのかと思ったが、普通の生活をしているみたいだ。

「おい。ジロジロ見るなよ。早く勉強教えてくれよ」
「…あぁ、分かった。じゃあ、お前らの苦手科目はなんだ?」
「俺は…現代社会」
「俺は数学です」
「…全部」

これも想像通りだ。全部って…どうしたら苦手になるんだよ…。俺…全員、ちゃんと教えられるかな。猫の手でも良いから借りたいよ…。

ニャー

今、猫の声が…幻聴聞こえた?

「今、猫の鳴き声聞こえなかった?」

しかし、笹井先輩にも聞こえたらしく不思議そうな顔で辺りを見回している。

「…ちっ!ちょっと席を外す…」

すると、隼一は慌てて寝室の方の部屋に入っていった。まさかとは思うけど、猫を飼っているのか?

「うぁぁぁ!セブン!何してるんだ!」

ニャーニャー

間違いなく…猫を飼っているようだ。数分の格闘音の後、ようやく隼一が戻ってきた。

「…ね、猫。飼ってるの?」
「引き取ってくれないか?笹井先輩」
「え?引き取るって…私が?」
「猫…好きだろ?多分、家に何匹かいるはず。服に猫の毛が付いてるし、手には引っ掻き傷がある」

洞察力が優れてるのか…?先輩が猫を飼っているなんて俺は全然知らなかったし…。

「セブンはこのアパートの下に捨てられてた猫だ。まだ、子供だから、1人では生きられない。だから、俺が拾ってやった」

地味に優しい事を言ってる…。

「何で、セブンって言うの?」
「…腹の模様が数字の『7』に似てるから…」
「俺、その猫みたいな!」

栄は珍しくはしゃぎながら、隼一に頼んでいた。隼一は黙って、寝室に行くと小柄の白のブチ猫を抱えて出てきた。

「可愛い!本当にお腹に7がある!」
「ま、正弥。こいつ、俺らのマスコットペットにしようよ!」
「こいつは笹井先輩にあげるんだ。部活にあげるつもりはない」
「…なぁ、それより、勉強…」
「なんだと!折角、7を持ってるのにマスコットペットにならないなんて駄目だよ!」
「7があるから何なんだよ!というか、この部活は一体、何なんだよ!」

いつの間にか、喧嘩をし始める栄と隼一の横で猫と遊ぶ笹井先輩…。そして、俺の横で黙々と、勉強をする佳介。これは…何なんだ。全く勉強出来ないじゃないか!唯一、勉強している佳介が可哀想だ。

「隼一!栄!さっさと席に着け!猫はその後だ!」

俺がそう喝を入れるとその場にいる全員の動きが止まった。

「良いか?マスコットペットを、作るのはちゃんとこの部活が学校に公認された時だ」
「はーい」
「マスコットペットにする気ねぇし…」

2人はそれぞれ不満そうな顔をしながらも席に着いた。猫も何かを悟ってくれたのか、笹井先輩の手から離れて元いた寝室の部屋へと戻っていった。

「荻野は猫…嫌いなの?」

そんな様子を見ていた笹井先輩は俺にそう質問をした。

「…嫌いじゃないですよ。でも、そこまで動物が好きではないですね」
「そっか…」
「正弥、そんな事を言うなよ。笹井先輩が哀しそうな顔してるじゃないか」

俺は動物に良い思い出がないから、仕方ない。ていうか、何で、隼一はガッツポーズしてるんだよ。

「じゃあ、倉石くんは?嫌い?」
「…好きですよ。でも、俺は犬派です」
「飼ってるの?」
「はい。柴犬を…」
「見たい!」

この2人、すごく話が盛り上がっている気がする…。だからって、俺は別に気にしない…。

「私ね。犬も飼いたいって思ってて、散歩の仕方とか教えてくれない?」
「じゃあ、一緒に散歩に行きますか?」
「ちょっと待て!お前ら!家が近いのか?」
「一応、出身校同じだから…」
「何を驚いてんのよ。近藤」

初耳だ。佳介、一言もそんな事を言わなかったのに…。

「か、彼女いるのに、他の女と一緒に犬と散歩する気か?」
「近藤君!どうして、それを!」
「そのペンは女子が選びそうな物だし。その鞄に着いてるのは遊園地のカップル限定商品だし…」

隼一って本当に不思議な奴だな。洞察力が優れすぎてる…。それを勉強に活かしてもらえると良いんだが…。

「…というか、そんな事は良いから、勉強してくれ…。特に隼一。お前は俺とマンツーマンでやる必要があるようだ」
「じゃあ、私は坊ちゃんと倉石くんを教えるわ」
「そんな〜!」

一日目はそんなこんなで、あまり勉強出来ずに終わった。
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