ラッキーセブン部
第十一話 マジック
今、部室は妙な空気に包まれていた。それは吉田先生が変な発言をしたからだ。
「パフォーマンスって何ですか…?」
正弥はすごく驚いた顔で吉田先生に質問をした。
「実は文化祭で学校紹介してくれる生徒会の子が怪我で入院してしまって生徒会で他にやれる子がいなくて君達に頼みたいんだ」
「なるほどね。だから、私達に不利な条件で賭けをして、その仕事を私達にさせようとしたってわけね」
笹井先輩の説明をうけ、俺もようやく、内容を理解した。確かに全員が短期間で100位以内に入るなんて不可能極まりない。
「でも…俺達に紹介が出来るんでしょうか?」
「俺もそう思ったから、君達には時間稼ぎの余興をやってもらおうと思う。退院してこの学校に来るまでの時間な。文化祭だし不自然ではないだろう」
…余興…
「お客さんを楽しませるなら、何をしても良いよ。部活の宣伝でも良いしな」
吉田先生は必死に俺達を説得しようとしている。それぐらいの仕事なら俺達も出来る。正弥もそう思ったのか、皆の顔を見回している。余興はそんなに難しい事ではない。皆(隼一以外)は同じように思ってるはず。
「…ダメか?」
「良いですよ。俺達の部活の宣伝にもなるなら、やりましょう」
「ありがとう」
正弥は大きく頷いた。正弥は部活のためにやるんだろうな。
「じゃあ、何をやるのか決めないとね」
「やりたい事を出し合うか…」
「ねぇ。それって、俺もやらないといけないのか?」
隼一はあきらかに嫌そうな顔をしている。
「部員なら…やってくれるでしょ?」
「…分かった」
さすが、笹井先輩だ。これなら、いくらでも隼一を扱う事ができる。
「さてと…全員のやる気が上がったということで、何をやりたい?」
「私、トランプで、できる物が良いと思う」
「マジックかなんかだよね」
笹井先輩の案に俺が同意すると、正弥は腕を組んで考えこんだ。
「…俺は、マジックできないけどできる人いる?」
正弥がそう問うと2人が静かに手を挙げた。
「俺、マジックくらいならできます」
「私もできる」
佳介と笹井先輩は顔を見合わせて笑った。…案の定、隼一はとても恐い顔で佳介を睨みつけてるし、正弥は逆に悲しそうな顔をしてる。部内が変な空気になるのは嫌だし、俺がどうにかするか…。
「じゃあ、笹井先輩と佳介が俺らにマジック教えてよ」
「良いですよ」
「別に構わないけど?」
佳介と笹井先輩は快く引き受けてくれた。2人が断るはずはないと思ったけどね。これであの2人も文句ないよね?
「…分かった。俺は笹井先輩に教わる」
「な、順当に言って一年は一年同士で佳介と隼一だろ?」
何の争いをしてるんだよ…。
気付いて、正弥と隼一…笹井先輩に呆れられてるよ。
「おい。お前ら」
すると、今まで黙って見ていた吉田先生が口を開いて、俺らにそう声をかけた。
「マジックだけで30分持つか?」
「「え?」」
「時間稼ぎだって言ってるだろう?5分やそこらの時間じゃ、足りないんだよ」
確かにマジックだけでは30分の間、ずっとできるわけがない。
「できる…私達ならできるよ」
「そうですね。話を含めれば30分なんて大した事ないですよ」
「まぁ、授業を1時間、聞くより楽だな」
「ラッキーな事は俺達が生み出す」
しかし、なぜか、皆やる気十分だった。文化祭か…あれ?文化祭って来週じゃなかったっけ?
「…なら、良いが。一週間後までに完成しとけよ」
吉田先生はそう言って、部室から立ち去った。
「正弥…大丈夫なの?」
「問題ない。あの人も呼ぶ」
「あの人?」
自信満々に正弥はそう言った。まさか、新しい人がまた来るのか?
「明日、連れてくるから。今日は解散」
正弥がそう言うと、今日の活動は終わった。
恒例のポーカー出来なかった…な。
…翌日、部室に行くと見覚えのある人が退屈そうにイスに座りながら、トランプをいじっていた。
「こ、こんにちわ。正弥のおじさん」
「栄君が先だったか…」
俺の姿を見るとおじさんは少しはにかみながら手を振っていた。そして、おじさんは俺にトランプを手渡した。
おじさんがマジックを教えるのかな?でも、それなら正弥もできるはず…。もしかしたら、今まで教わらなかっただけなのかもしれない…。日常にそんなに必要ないからね。
「正弥は…どこにいる?」
「委員会です。でも、もうすぐ来ると思います」
正弥は真面目だから仕事をさっさと終わらせて、すぐに来るだろう。
ガチャ
そんな事を考えていると部室のドアが開いた。
「ハロー」
正弥か部員が来たのかと思ったのに入ってきたのは見知らぬ外国人だった。俺が一番、最初に思ったのは背が高いということ。190cm以上近くはあると思う…。この人、部屋を間違えたのかな?
すると、正弥のおじさんが立ち上がってその外国人と英語で会話をし始めた。
おじさん…英語、ペラッペラだ。さすがというべきか。道案内でもしようとしてるのかな?しかし、おじさんは俺の肩を持って外国人の目の前に立たせた。
おじさん、何をさせる気ですか!俺、道案内なんて全くできないですよ!
二人の威圧感が恐い…。
すると、その外国人は上着のポケットから小さなケースを取り出した。
もしや、危ない物でも入ってるのか?
そして、外国人はそれを上に投げた。すると、今まで無かったはずのトランプが外国人の手の中に収まっていた。
マジックだ…。
俺が拍手をすると外国人はニコッと笑った。すると、今度は俺に一枚トランプを選ぶように差し出した。俺が一枚引いて覚えると、外国人はポケットからマッチとビンを取り出し、俺にカードをビンの中に見えないように入れるよう、促した。燃やせば良いのかな?
俺は外国人に見えないようにトランプを燃やした。
これ、本当に燃やして良いのかな?
外国人はそれを確認すると、さっきのトランプの束の上をめくった。
俺が引いたカードがそこにあった。しかも、ビンの中の燃えかすもなくなっていた。
ずっと、このビンを持っていたはずなのにどうして消えてるんだ?
俺が目を瞬かせていると外国人は笑顔でトランプをオレンジジュースに変えて俺に手渡した。
「セ、センキュー…」
「どういたしまして」
「っ!」
日本語で話した!しかも、結構、流暢だし。
「あ、あの…正弥のおじさん。この方が俺らにマジックを教えるんですか?」
「そうだよ。この人はドチャーさんだ」
「ドチャーさん…」
「よろしく」
ドチャーさんは俺に握手を求めてきたから俺も手を差し出した。
手も大きい…。
ガチャ
「遅くなりました」
「…」
俺とドチャーさんが握手をやめると佳介と隼一が部室に入ってきた。そして、正弥のおじさんとドチャーさんを見ると口をあんぐりと開けていた。
「あんた達、何、止まってんのよ。…えっ?」
その二人の間を割って入ってきたのは、笹井先輩だった。前、2人と同様に笹井先輩は驚いた顔でドチャーさんを見つめていた。
「…おっ!皆、揃ったな」
正弥はなぜか隣の生徒会室から、出てきて俺らにそう言った。そして、俺らとドチャーさんの間に割って入った。
「この人はドチャーさん。俺のおじさんの店の常連客だ。マジシャンの仕事をしていて日本の各地を回ってる。だから、日本語は上手だ」
「上手だなんてそんな…僕はまだまだですよ」
謙遜まで上手じゃないか。
…でも、まさか、正弥がマジックのプロを連れてくるとは思わなかった。常連客さんか…納得。
「じゃあ、今からやりましょうか?」
「「はいっ!」」
というわけで、俺らはマジック講座をドチャーさんとする事になった。
「違います!そこはこうです!」
ドチャーさんはやんわりと教えてくれるのかと思いきや、とっても手厳しく指導してきた。熱意は感じるのだが、俺らには少し難しいマジックでなかなか習得するのは難しいだろう。負けず嫌いの笹井先輩はなんとかコツを掴んでいるようで隼一に教えたりしていた。その間、正弥は苦虫を潰したような感じで見ていた。佳介は佳介で一人の世界に入っていて、少し怖い空間が部室に広がっていた…。
「ねぇ。正弥…。これ、どうやれば良いかな?」
「…それは…コインに目を引きつけさせてから…」
「正弥先輩。これは?」
「それは…トランプの裏を見せてから…」
でも、この中では一番、正弥がマジックを分かっている気がする。さすが、成績優秀者…。物覚えが早い。
「なぁ、笹井先輩。この後、暇?」
「私はこの後、勉強するから暇じゃないよ…」
「じゃあ、明日は?」
「明日は佳介君と犬の散歩」
「「何!」」
この光景もなんだか慣れてきたな…。今では微笑ましいよ。…気になるのは…笹井先輩の本命だけどね。
「君達!マジックの練習を怠けてはダメだよ!」
ドチャーさんはやはり厳しい…。
「パフォーマンスって何ですか…?」
正弥はすごく驚いた顔で吉田先生に質問をした。
「実は文化祭で学校紹介してくれる生徒会の子が怪我で入院してしまって生徒会で他にやれる子がいなくて君達に頼みたいんだ」
「なるほどね。だから、私達に不利な条件で賭けをして、その仕事を私達にさせようとしたってわけね」
笹井先輩の説明をうけ、俺もようやく、内容を理解した。確かに全員が短期間で100位以内に入るなんて不可能極まりない。
「でも…俺達に紹介が出来るんでしょうか?」
「俺もそう思ったから、君達には時間稼ぎの余興をやってもらおうと思う。退院してこの学校に来るまでの時間な。文化祭だし不自然ではないだろう」
…余興…
「お客さんを楽しませるなら、何をしても良いよ。部活の宣伝でも良いしな」
吉田先生は必死に俺達を説得しようとしている。それぐらいの仕事なら俺達も出来る。正弥もそう思ったのか、皆の顔を見回している。余興はそんなに難しい事ではない。皆(隼一以外)は同じように思ってるはず。
「…ダメか?」
「良いですよ。俺達の部活の宣伝にもなるなら、やりましょう」
「ありがとう」
正弥は大きく頷いた。正弥は部活のためにやるんだろうな。
「じゃあ、何をやるのか決めないとね」
「やりたい事を出し合うか…」
「ねぇ。それって、俺もやらないといけないのか?」
隼一はあきらかに嫌そうな顔をしている。
「部員なら…やってくれるでしょ?」
「…分かった」
さすが、笹井先輩だ。これなら、いくらでも隼一を扱う事ができる。
「さてと…全員のやる気が上がったということで、何をやりたい?」
「私、トランプで、できる物が良いと思う」
「マジックかなんかだよね」
笹井先輩の案に俺が同意すると、正弥は腕を組んで考えこんだ。
「…俺は、マジックできないけどできる人いる?」
正弥がそう問うと2人が静かに手を挙げた。
「俺、マジックくらいならできます」
「私もできる」
佳介と笹井先輩は顔を見合わせて笑った。…案の定、隼一はとても恐い顔で佳介を睨みつけてるし、正弥は逆に悲しそうな顔をしてる。部内が変な空気になるのは嫌だし、俺がどうにかするか…。
「じゃあ、笹井先輩と佳介が俺らにマジック教えてよ」
「良いですよ」
「別に構わないけど?」
佳介と笹井先輩は快く引き受けてくれた。2人が断るはずはないと思ったけどね。これであの2人も文句ないよね?
「…分かった。俺は笹井先輩に教わる」
「な、順当に言って一年は一年同士で佳介と隼一だろ?」
何の争いをしてるんだよ…。
気付いて、正弥と隼一…笹井先輩に呆れられてるよ。
「おい。お前ら」
すると、今まで黙って見ていた吉田先生が口を開いて、俺らにそう声をかけた。
「マジックだけで30分持つか?」
「「え?」」
「時間稼ぎだって言ってるだろう?5分やそこらの時間じゃ、足りないんだよ」
確かにマジックだけでは30分の間、ずっとできるわけがない。
「できる…私達ならできるよ」
「そうですね。話を含めれば30分なんて大した事ないですよ」
「まぁ、授業を1時間、聞くより楽だな」
「ラッキーな事は俺達が生み出す」
しかし、なぜか、皆やる気十分だった。文化祭か…あれ?文化祭って来週じゃなかったっけ?
「…なら、良いが。一週間後までに完成しとけよ」
吉田先生はそう言って、部室から立ち去った。
「正弥…大丈夫なの?」
「問題ない。あの人も呼ぶ」
「あの人?」
自信満々に正弥はそう言った。まさか、新しい人がまた来るのか?
「明日、連れてくるから。今日は解散」
正弥がそう言うと、今日の活動は終わった。
恒例のポーカー出来なかった…な。
…翌日、部室に行くと見覚えのある人が退屈そうにイスに座りながら、トランプをいじっていた。
「こ、こんにちわ。正弥のおじさん」
「栄君が先だったか…」
俺の姿を見るとおじさんは少しはにかみながら手を振っていた。そして、おじさんは俺にトランプを手渡した。
おじさんがマジックを教えるのかな?でも、それなら正弥もできるはず…。もしかしたら、今まで教わらなかっただけなのかもしれない…。日常にそんなに必要ないからね。
「正弥は…どこにいる?」
「委員会です。でも、もうすぐ来ると思います」
正弥は真面目だから仕事をさっさと終わらせて、すぐに来るだろう。
ガチャ
そんな事を考えていると部室のドアが開いた。
「ハロー」
正弥か部員が来たのかと思ったのに入ってきたのは見知らぬ外国人だった。俺が一番、最初に思ったのは背が高いということ。190cm以上近くはあると思う…。この人、部屋を間違えたのかな?
すると、正弥のおじさんが立ち上がってその外国人と英語で会話をし始めた。
おじさん…英語、ペラッペラだ。さすがというべきか。道案内でもしようとしてるのかな?しかし、おじさんは俺の肩を持って外国人の目の前に立たせた。
おじさん、何をさせる気ですか!俺、道案内なんて全くできないですよ!
二人の威圧感が恐い…。
すると、その外国人は上着のポケットから小さなケースを取り出した。
もしや、危ない物でも入ってるのか?
そして、外国人はそれを上に投げた。すると、今まで無かったはずのトランプが外国人の手の中に収まっていた。
マジックだ…。
俺が拍手をすると外国人はニコッと笑った。すると、今度は俺に一枚トランプを選ぶように差し出した。俺が一枚引いて覚えると、外国人はポケットからマッチとビンを取り出し、俺にカードをビンの中に見えないように入れるよう、促した。燃やせば良いのかな?
俺は外国人に見えないようにトランプを燃やした。
これ、本当に燃やして良いのかな?
外国人はそれを確認すると、さっきのトランプの束の上をめくった。
俺が引いたカードがそこにあった。しかも、ビンの中の燃えかすもなくなっていた。
ずっと、このビンを持っていたはずなのにどうして消えてるんだ?
俺が目を瞬かせていると外国人は笑顔でトランプをオレンジジュースに変えて俺に手渡した。
「セ、センキュー…」
「どういたしまして」
「っ!」
日本語で話した!しかも、結構、流暢だし。
「あ、あの…正弥のおじさん。この方が俺らにマジックを教えるんですか?」
「そうだよ。この人はドチャーさんだ」
「ドチャーさん…」
「よろしく」
ドチャーさんは俺に握手を求めてきたから俺も手を差し出した。
手も大きい…。
ガチャ
「遅くなりました」
「…」
俺とドチャーさんが握手をやめると佳介と隼一が部室に入ってきた。そして、正弥のおじさんとドチャーさんを見ると口をあんぐりと開けていた。
「あんた達、何、止まってんのよ。…えっ?」
その二人の間を割って入ってきたのは、笹井先輩だった。前、2人と同様に笹井先輩は驚いた顔でドチャーさんを見つめていた。
「…おっ!皆、揃ったな」
正弥はなぜか隣の生徒会室から、出てきて俺らにそう言った。そして、俺らとドチャーさんの間に割って入った。
「この人はドチャーさん。俺のおじさんの店の常連客だ。マジシャンの仕事をしていて日本の各地を回ってる。だから、日本語は上手だ」
「上手だなんてそんな…僕はまだまだですよ」
謙遜まで上手じゃないか。
…でも、まさか、正弥がマジックのプロを連れてくるとは思わなかった。常連客さんか…納得。
「じゃあ、今からやりましょうか?」
「「はいっ!」」
というわけで、俺らはマジック講座をドチャーさんとする事になった。
「違います!そこはこうです!」
ドチャーさんはやんわりと教えてくれるのかと思いきや、とっても手厳しく指導してきた。熱意は感じるのだが、俺らには少し難しいマジックでなかなか習得するのは難しいだろう。負けず嫌いの笹井先輩はなんとかコツを掴んでいるようで隼一に教えたりしていた。その間、正弥は苦虫を潰したような感じで見ていた。佳介は佳介で一人の世界に入っていて、少し怖い空間が部室に広がっていた…。
「ねぇ。正弥…。これ、どうやれば良いかな?」
「…それは…コインに目を引きつけさせてから…」
「正弥先輩。これは?」
「それは…トランプの裏を見せてから…」
でも、この中では一番、正弥がマジックを分かっている気がする。さすが、成績優秀者…。物覚えが早い。
「なぁ、笹井先輩。この後、暇?」
「私はこの後、勉強するから暇じゃないよ…」
「じゃあ、明日は?」
「明日は佳介君と犬の散歩」
「「何!」」
この光景もなんだか慣れてきたな…。今では微笑ましいよ。…気になるのは…笹井先輩の本命だけどね。
「君達!マジックの練習を怠けてはダメだよ!」
ドチャーさんはやはり厳しい…。