ラッキーセブン部
第十三話 文化祭の余興
今日は文化祭か…俺のクラスはどうやら縁日をやるみたいだけど、俺がやる準備の仕事はあまりないし、そろそろ先輩達の手伝いに行った方が良いよね。俺達の出番は校長先生の話の次だ。少しでも遅れたら皆の迷惑になってしまう…。
そう思って、俺は早くにクラスを抜け出し、体育館に行った。

「あ、佳介。早いな」
「まだ、クラスの準備してても良いんだよ?」
「大丈夫です。俺のクラス、あまりやる事ないので」
「なんだ。俺らと同じか。俺らも除け者にされてここに逃げ込んできたんだよね?正弥」
「お化け屋敷なんて…くだらない」
「あれ?正弥、もしかして、おばけ嫌いなの?」
「…そんなわけないだろ」

正弥先輩と栄先輩…本当に暇なんだろうな。演説台の上でポーカーをしてるくらいだから…。

「あんた達…早すぎじゃない?どんだけ、暇なのよ」
「笹井先輩もやりますか?ポーカー」
「今日は遠慮しとく」

俺に続いて笹井先輩も体育館にやって来た。

「…また、やってる…」

その後に数分もしないうちに近藤君もやって来た。
近藤君ってなんだかんだ言って、不良じゃない所もあるな。
…笹井先輩との約束。あの時、俺は正弥先輩と同様に反対だった。だけど、あそこで俺が何を言ったって最後にそれを決めるのは笹井先輩だ。俺ではない。それを分かっているせいか、なんとなく悔しかった。栄先輩はどうして近藤君の肩を持ったんだろうか。俺の気持ちを知っているはずなのに。栄先輩に直接、聞いた方が良いのだろうか。
いつの間にか、俺は栄先輩の事を凝視していたのかそれに気付いた栄先輩はトランプを置いて俺の目の前に来た。

「どうした?佳介」
「…え…と…聞きたい事があります」
「…俺も佳介に言いたい事があったからちょっとジュース買いに行く途中、話し合おうか…」

栄先輩は優しく微笑みながら、俺にそう提案した。栄先輩の言いたい事って何だろうか…。

「正弥〜。ちょっとジュース買って来るね」
「早く帰ってこいよ〜」
「それは無理かも〜なんてね」
「早く行け」

俺は栄先輩の後ろに続いて体育館を出た。栄先輩は購買の所には向かわず、裏庭の方に歩いていった。

「ここなら、人は来ないかな」

栄先輩は振り返ってニコッと笑った。俺と話そうとしている事が他の人に聞かれないように気遣ってくれてるんだろうか…。

「あ、あの。質問して良いですか?」
「良いよ。俺の答えられる範囲なら」
「…どうして近藤君の肩を持ったんですか?」

率直過ぎたかな…?栄先輩は少し頭を掻いてから口を開いた。

「えっと…俺が隼一の肩を持った理由は…人数が減って欲しくなかったから…ただ、それだけだよ」

人数が減って欲しくなかった…?

「文化祭の余興なら人数少なくてもできると思いますよ?」
「文化祭はね…。でも、俺はこの部の人数自体を減らしたくなかったんだ」
「どういう意味ですか?」
「正弥はこの部の一応、部長だ。簡単に辞めるわけにはいかない。俺はこの部が好きだから辞めない。笹井先輩も案外、この部が好きだから辞めない。佳介だって、笹井先輩の事を抜かしてもこの部の事が好きだろう?」
「はい…」
「でもな、隼一は違うんだよ。この部自体をまだ好きになっていないし、目当ては笹井先輩だけ。隼一を引き留めておくには笹井先輩が必要なんだ。俺の勝手だとは思うけど、この方法しかなかったんだ…」
「先輩…」
「俺は誰の肩も持たないつもりだ。今回のは人員確保のためだから、許してくれないかな…」

栄先輩は申し訳なさそうに俺に頭を下げた。
人員確保のため…。それは薄々感づいてはいたけど…。やっぱり、納得いかない部分もある。

「先輩…。でも、俺は今年までになんとかしないと…」
「…チャンスなら俺が作るよ」
「え…」
「償いはするよ。納得の行く形でね。そろそろジュース買って帰らないと…」
「もしかして…それが俺に言いたかった事ですか?」
「…うん」

栄先輩は少し苦笑いをしてから、元来た道を戻って購買に向かった。

ー体育館ー

体育館に戻るとちょうど、校長先生の演説(?)が始まっていた。

「…少し遅かったな。でも、余興に間に合って良かった。これから始まるから準備をしておけ」
「はい」

校長先生の話が終わると進行役の人の声が聞こえてきた。

「次のプログラムはラッキーセブン部による余興です」

こうやって正式に部活の名前を言われるとなんだか照れるな…。栄先輩もそう思ったのか、すごくニヤニ……ニコニコしていた。
俺達はポップな音楽とともに舞台に立った。

「『みなさん。こんにちは!ようこそ!おいでくださいました!これから、僕達はマジックと僕達の部活紹介をします!』はい。正弥、パス」
「『え…と。ま、まずはトランプマジックです』」

楽しそうな栄先輩とは反対にに正弥先輩はすごく緊張をしているようで、俺の方をチラチラと見ながら言葉を発していた。
そんな正弥先輩を見ていると、俺まで緊張してきてしまう。一週間のマジック練習で俺達にどれくらいできるだろうか…。などの不安も浮かんできてしまった。

「お前らが余興なんかやるんじゃねぇ!」

俺達が早速、マジックを始めようとすると、そんな声がどこからか
聞こえてきて、気づくと知らない人達が舞台に上がってきていた。

「あ…この間はどうも…」
「昨日のやつか…」
「…なんで那央がここに…」
「…」

俺以外の人は皆、誰か分かっているようでそれぞれ嫌な顔をしていた。昨日、俺が部室で待っている間に何か起こってたのかな。少しだけ仲間はずれにされたような気分になって俺は少しだけ皆から離れた。

「ラッキーセブン部なんて変な名前の部活に入ったんだな〜。隼一」
「俺だって入りたくなかった…」

でも、このままだとマジック及び部活紹介が出来なくなってしまう予感がする。せっかくの正弥先輩や栄先輩の計らい…近藤君と笹井先輩の努力が無駄になる。俺がなんとかしないと…。ん…でも、この不良さん達はこの前の外人さんのような役割のある人達かもしれない。ここは俺が司会をしてみよう。

「…正弥先輩。マイクを」
「ん?マイクなんかどうするんだ?」
「余興です」

俺は正弥先輩からマイクを受け取ると一呼吸してから言葉を発した。

「えっと…『それではこれから部活紹介をします。あ、この人は僕達の余興を手伝いに来たスタッフさんです』」
「は?何、言ってんだ?お前」
「『それでは、部員を紹介します。まずはこの部の部長。正弥先輩!』…正弥先輩…背負い投げお願いします…」
「…え。背負い投げ?」

正弥先輩は戸惑いながらも、飛びかかってきた不良を背負い投げした。近藤君の知り合いみたいだしこれくらいの事はゆるしてくれるはず…。俺がそう思っているといつの間に集まってきたのか、俺の後ろには数人の不良が立っていた。これは…やばい。

「佳介。続けて俺がこいつらをやるから!」
「は、はい!『次は栄先輩です!得意の足技をどうぞ』」

栄先輩は軽快に足技を繰り出していく。

「私、しつこい人は嫌いなの!」
「えっと…『次は笹井先輩です!』えっと…えっと…な、何かしてみてください!」
「無茶な事言わないでよ!」

笹井先輩はそう言いながら、不良を平手で叩いてから舞台袖に隠れてしまった。

「『…次は近藤君ですね』」
「先輩達がやっつけたから俺の出番はないと思うけど。というか、何で先公は止めないんだ」

吉田先生を探すと一番前の席で目をランランとさせながら俺達の事を見ていた。まるでプロレス観戦をしているように…。他の先生はこれが余興だと思って止めようともしないし。

「『では、マジックを初めましょう!』」

俺がそう言うと、観客席はザワザワとした。もしかして、ケンカの方が受けが良いのかな…。だけど、このままこの人達を理由もなく痛めつけるわけにはいかないし…。

「固まってるなら、マイク貸せ」

俺が考え事をしていると、横から手が伸びてきて、マイクを取り上げられた。横を向くと仏頂面でマイクを胸の前で握りしめている近藤君がいた。そして、大きく息を吸い込んでいた。
まさか、近藤君、大声を出すんじゃないだろうか。そう思った俺は咄嗟に耳を塞いだ。

「なにしてんだよ。お前の紹介がまだだろうが。俺から紹介してやるから、特技でも見せろ」

しかし、耳には近藤君の静かな声が聞こえた。近藤君はマイクを持った手をおろして、俺の方を呆れた顔で見ていた。

「あと…お前の説明だとこの部が何の部活か分からないだろう…。格闘技部じゃねぇんだから、闘いとかいらねぇし」
「そ、そうだね」

俺は周りを見渡した。確かにこの状況を見て俺達の部活が何なのかなんて分かるわけない。
…というか、そもそも、この人達は誰なんだろうか。勝手に巻き込んでしまったけれど。

「おい、佳介。何かやれって」
「え、何かって…。じゃあ、側転します!…よっと!」
「…クスクス。えっと、『こいつは一年の佳介です。まぁ、ここまで部員の特技を見せてきてほぼ運動系だったんすけど、俺達の部は文化系です。ラッキーセブン部って言って『7』を持っている奴らが集っている部で、この部の設立理由は…』」

気付くと近藤君は流暢に紙も無しで部活の事を話していた。こんなに積極的に何かをする近藤君を見るのは初めてだ…。それに俺が側転した時、笑ってたし…。笑った所を見るのも初めてだ。
先輩達を見ると口をポカンと開けて近藤君を見ていた。

「えっと…『以上がこの部の成り立ちです。というわけで、7の数字を持ってる奴でこの部に来てくれるって男子、2人募集中!あ、でも、嘘で来てもバレるからな。笹井先輩目当てで来ないようにそこはよろしく。んじゃあ、マジックやるか』」

近藤君はそう言うと、マイクを栄先輩に投げて渡そうとした。

ゴンっ

「あ…」
「痛〜い!あ〜あ〜!」

しかし、栄先輩は…ボーとしていたのか、山なりに飛んできたマイクに気付かず、おでこに鈍い音をさせて命中した。そして、おでこを抑えて七転八倒していた。

「おい。お前ら!もう、余興はやらなくていいぞ。彼女が学校に来たから」

すると、舞台の下で吉田先生のそんな声が聞こえてきた。
どうやら、俺達の仕事は終わったらしい…。
俺は栄先輩に肩を貸して舞台から降りた。正弥先輩と近藤君は一番体が大きい不良さんを担いで下に降りてきた。その他の不良さんもそれに続いてぞろぞろと降りた。笹井先輩はというとマイクを委員会の人に返していた。
何もしていないのに俺は何でこんなに疲れているんだろうか。俺は舞台を見上げながら、息を吐いた。今の余興は成功していたのだろうか…。そこが一番気になる所だが。
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