ラッキーセブン部
ー昼休みー
私はその後、教室でクイズ大会を見物してから、1人で模擬店を周って部室に戻ってきた。
近藤は部室に戻っているかと思ったけど、姿はなかった。
あいつ…本当にクラスの手伝いしに行ったのかな…?
というか、部室に…人がいない…。
「あ、おかえりなさい。隼一は…クラスの手伝いですか?」
「あ…うん」
よく見ると倉石君が隅っこの椅子に座りながら昼食を取っていた。
「えっと…あの2人は?」
「先輩達は茶道部に行って、お茶を飲んでくるそうです」
「倉石君は行かないの?」
「俺は店番と笹井先輩が帰ってきた時に困らないように待ってたんです」
店番って…。結構、前からあの2人はこの教室を出て行ったって事だよね。倉石君はずっと1人で店番をしてたんだ…。倉石君ってこういう優しい所があるから、モテるんだよね、きっと。お人好し…というか。
「あ、あの…。俺の顔に何かついてますか?」
いつの間にか、私は倉石君の事をジッと見ていたみたいで倉石君は目をキョロキョロとさせながら、私に問いかけていた。
「あ、ごめん。何でもないよ」
「そうですか。あ、笹井先輩。午後はどこに周りたいですか?隼一とは色々と周ったと思いますけど…何か行ってない所とかありますか?」
行ってない所…か。どこにも行ってない…なんて言えないよね。行ったとすればクイズ大会だけど…。
「そ、そうね。お化け屋敷とかかな」
「え…。お化け屋敷ですか?ま、まぁ、先輩がそういうなら行きましょうか」
文化祭っていったらお化け屋敷っていう連想しか思いつかなかったからつい言っちゃったけど…。私、苦手なんだよね。倉石君の顔もすごく強張ってるし…これは提案ミス。
「や、やっぱり、模擬店を周ろうか」
「そうですね。今年のお化け屋敷って本当に出るらしいのでやめましょう」
「えっ!それ…本当?」
「分かりませんが…隼一のクラスの迷路式お化け屋敷では出たそうです」
近藤のクラスね…。それを聞くと気になる…。お化けではなくて、近藤の事が。私のせいで暗い文化祭を過ごしているかもしれない。あいつの様子をちゃんと確認したい。
「私、そのお化け屋敷に行きたいな」
今度の言葉はきちんと私の意志で出た。それを聞いた倉石君は目を丸くしていた。
「行くんですか?」
「うん。行きたい」
「分かりました。本当に出た時は笹井先輩を守りますから、お化け屋敷に行きましょうか」
倉石君はどこかの執事のような言葉を発してニコリと笑った。
「たっだいま〜」
「佳介、そろそろ時間だ。楽しんでこいよ」
そこへ荻野と坊ちゃんが帰ってきた。2人とも片手にビニール袋を持っていた。
「何それ」
「これは、緑の苦い物体です」
「え…」
「お茶ですよ。栄、お前。普通の言い方は出来ないのか?」
「遠回しに言った方が面白いかなと思ってね。佳介もそう思うだろ?」
「遠回しですか…」
「意味分からない事を教えなくて良いから、次のお客に備えておけって…」
「正弥はお固いな〜。まぁ、でも、そろそろなのは確かだね。佳介、先輩をお連れして」
「は、はい」
私達は半分追い出されるような形で部室を出た。お茶くらい飲ませてくれても良いと思うんだけど。
「先輩。お化け屋敷に行きましょうか」
「そうね。でも、私、場所知らないんだけど…」
「大丈夫ですよ。確か、この部室のちょうど、上の階でやってるそうですから」
上の階か…確か妙に広い会議室だよね。あんな所でお化けって出るのかな?委員会でいつも使ってるからそんなに怖くはないかも。
会議室前に行くとちょうど、受付に座って仏頂面で本を読んでいる近藤がいた。近藤は私達に気付くと本を下に置いた。いや、置いたというより落とした。
「いらっしゃいませ〜。2名様ですね?身の毛もよだつ幽霊部屋によーこそ。この部屋から時間内に出られなかった場合、ここのおばけにとり憑かれて一生出れません」
近藤は棒読みにそう淡々と話すと袋の中から手作りのようなお札を出した。
「あ、ありがとう。…っ!?」
私は受け取ろうとその札を掴んだけど、近藤は離そうとしなかった。
「…俺が笹井先輩にとり憑いちゃうかもよ…」
「えっ!」
そして、近藤は私の耳元でそう囁いた。
「では、その札を祠に返して無事に脱出できると良いっすね」
近藤は札から手を話すと嫌な笑みを浮かべて会議室の扉をゆっくりと開けた。
「じゃあ、俺から入りますね。隼一、お札をありがとう」
「…あぁ」
私は倉石君の後ろに続いてお化け屋敷の中に足を踏み込んだ。
中は想像以上に暗くて前を歩いている倉石君をすぐにでも見失ってしまいそうだった。
「暗いですね…。はぐれないように先輩、俺に掴まっててもらえますか?」
「わ、分かった」
私は倉石君の服の裾に掴まった。
「笹井先輩…。どうやら、右からおばけ役の人が出てくるみたいなので一旦、俺の左に来てもらえますか?」
「え、どうして分かるの?」
「なんとなくです…」
私は不思議に思いながらも、一旦、倉石君の左隣に行った。すると、その直後、右側に置いてあった掃除用具入れの中からおばけ役が出てきた。事前に言われていたとはいえ、やはり、怖いものは怖く悲鳴をあげそうになった。
「村田君。おばけ役だったんだね」
「倉石か。あ、さっきはありがとな」
「別にたいしたことはしてないよ。そうだ。ここの迷路は今、誰がいる?」
「えっと…たしか…宮沢、浜岸、細谷、あとは、加藤、岩崎、成田だったはずだけど、何でそんな事、聞くんだ?」
「本物のおばけと見分けるためだよ」
「へ〜本格的だな。頑張れ、でも彼女を泣かさないようにしろよ」
「いや、彼女じゃないよ…」
この2人知り合いだったんだ。って当たり前か。一年生だもんね。村田という人と別れると倉石君はまた進み始めた。
「次は左から来るみたいですね。多分、手だけですけど」
するとまた、すぐに左側の壁から無数の手が出てきた。
「ほ、本当に何で分かるの?」
「…なんなとなくです」
私と倉石君はそんな調子で手作りの祠の所まで行ってお札を返し、出口付近まで来た。
「いなかったですね。本物のおばけ」
「いなくて良かったと思うよ」
私達が扉を開けようとすると、黒い人影がスッと扉を開けた。
「あ、ありがとうございます…」
「笹井先輩…この人、8人目ですよね?」
「あ、そうだね。でも、おばけ役ではないから数に入らなかったんじゃない?」
「そうですか…」
私達は不思議に思ったが、そのまま外へ出た。外に出て受付を見ると、近藤はさっきと同じように本を読みながら座っていた。
「早かったな。悲鳴も聞こえなかったし…つまらない奴ら」
そして、顔をあげると呟くような声で私達にそう言った。しかし、倉石君はそれを気にすることなく近藤に質問した。
「ねぇ、隼一。この出口の扉を開ける係っている?」
「え?そんなのいねぇよ。受付も含めて、8人でやる事になってるんだから」
「そっか…。ありがとう。楽しかったよ。お化け屋敷」
「それは良かったな」
近藤はそう言うとまた、本に目を戻した。
受付も含めて8人…出口にいたのは…本当のおばけだったのかな。今になって、私は身震いをした。
「先輩。模擬店に行きましょうか」
「そう…ね」
倉石君はニコリと笑いながら、そう提案してくれた。また、気を使ってくれたのかな…。
私達はお化け屋敷を後にして中庭に行った。中庭ではたくさんの屋台が出ていた。
「あ、ここに座っててください。俺が買ってくるので」
「え、良いよ」
「俺も座りたいんです。ダメですか?」
「そうね。じゃあ、お願い…」
「はい」
私は木陰の下の席に着いて、周りを見渡した。ここの中庭って、こう見ると結構広い。いつもは友達と談笑しながらここを通っているから気づきもしなかったけど。この景色を見るのも今回の文化祭で最後か…。何かさみしいな。
「先輩、買ってきました。どうぞ」
「ありがとう」
倉石君が買ってきたのは缶ジュースとクッキーだった。クッキーは星型やハート型にかたどられていた。これは…可愛い。
「あの。先輩、俺の相談に乗ってくれますか?」
「うん」
倉石君は深刻そうな顔で私にそう問いた。私はもちろん反射的にうんと答えると倉石君は缶ジュースを見つめながら話し始めた。
「俺…実は…」
私はその後、教室でクイズ大会を見物してから、1人で模擬店を周って部室に戻ってきた。
近藤は部室に戻っているかと思ったけど、姿はなかった。
あいつ…本当にクラスの手伝いしに行ったのかな…?
というか、部室に…人がいない…。
「あ、おかえりなさい。隼一は…クラスの手伝いですか?」
「あ…うん」
よく見ると倉石君が隅っこの椅子に座りながら昼食を取っていた。
「えっと…あの2人は?」
「先輩達は茶道部に行って、お茶を飲んでくるそうです」
「倉石君は行かないの?」
「俺は店番と笹井先輩が帰ってきた時に困らないように待ってたんです」
店番って…。結構、前からあの2人はこの教室を出て行ったって事だよね。倉石君はずっと1人で店番をしてたんだ…。倉石君ってこういう優しい所があるから、モテるんだよね、きっと。お人好し…というか。
「あ、あの…。俺の顔に何かついてますか?」
いつの間にか、私は倉石君の事をジッと見ていたみたいで倉石君は目をキョロキョロとさせながら、私に問いかけていた。
「あ、ごめん。何でもないよ」
「そうですか。あ、笹井先輩。午後はどこに周りたいですか?隼一とは色々と周ったと思いますけど…何か行ってない所とかありますか?」
行ってない所…か。どこにも行ってない…なんて言えないよね。行ったとすればクイズ大会だけど…。
「そ、そうね。お化け屋敷とかかな」
「え…。お化け屋敷ですか?ま、まぁ、先輩がそういうなら行きましょうか」
文化祭っていったらお化け屋敷っていう連想しか思いつかなかったからつい言っちゃったけど…。私、苦手なんだよね。倉石君の顔もすごく強張ってるし…これは提案ミス。
「や、やっぱり、模擬店を周ろうか」
「そうですね。今年のお化け屋敷って本当に出るらしいのでやめましょう」
「えっ!それ…本当?」
「分かりませんが…隼一のクラスの迷路式お化け屋敷では出たそうです」
近藤のクラスね…。それを聞くと気になる…。お化けではなくて、近藤の事が。私のせいで暗い文化祭を過ごしているかもしれない。あいつの様子をちゃんと確認したい。
「私、そのお化け屋敷に行きたいな」
今度の言葉はきちんと私の意志で出た。それを聞いた倉石君は目を丸くしていた。
「行くんですか?」
「うん。行きたい」
「分かりました。本当に出た時は笹井先輩を守りますから、お化け屋敷に行きましょうか」
倉石君はどこかの執事のような言葉を発してニコリと笑った。
「たっだいま〜」
「佳介、そろそろ時間だ。楽しんでこいよ」
そこへ荻野と坊ちゃんが帰ってきた。2人とも片手にビニール袋を持っていた。
「何それ」
「これは、緑の苦い物体です」
「え…」
「お茶ですよ。栄、お前。普通の言い方は出来ないのか?」
「遠回しに言った方が面白いかなと思ってね。佳介もそう思うだろ?」
「遠回しですか…」
「意味分からない事を教えなくて良いから、次のお客に備えておけって…」
「正弥はお固いな〜。まぁ、でも、そろそろなのは確かだね。佳介、先輩をお連れして」
「は、はい」
私達は半分追い出されるような形で部室を出た。お茶くらい飲ませてくれても良いと思うんだけど。
「先輩。お化け屋敷に行きましょうか」
「そうね。でも、私、場所知らないんだけど…」
「大丈夫ですよ。確か、この部室のちょうど、上の階でやってるそうですから」
上の階か…確か妙に広い会議室だよね。あんな所でお化けって出るのかな?委員会でいつも使ってるからそんなに怖くはないかも。
会議室前に行くとちょうど、受付に座って仏頂面で本を読んでいる近藤がいた。近藤は私達に気付くと本を下に置いた。いや、置いたというより落とした。
「いらっしゃいませ〜。2名様ですね?身の毛もよだつ幽霊部屋によーこそ。この部屋から時間内に出られなかった場合、ここのおばけにとり憑かれて一生出れません」
近藤は棒読みにそう淡々と話すと袋の中から手作りのようなお札を出した。
「あ、ありがとう。…っ!?」
私は受け取ろうとその札を掴んだけど、近藤は離そうとしなかった。
「…俺が笹井先輩にとり憑いちゃうかもよ…」
「えっ!」
そして、近藤は私の耳元でそう囁いた。
「では、その札を祠に返して無事に脱出できると良いっすね」
近藤は札から手を話すと嫌な笑みを浮かべて会議室の扉をゆっくりと開けた。
「じゃあ、俺から入りますね。隼一、お札をありがとう」
「…あぁ」
私は倉石君の後ろに続いてお化け屋敷の中に足を踏み込んだ。
中は想像以上に暗くて前を歩いている倉石君をすぐにでも見失ってしまいそうだった。
「暗いですね…。はぐれないように先輩、俺に掴まっててもらえますか?」
「わ、分かった」
私は倉石君の服の裾に掴まった。
「笹井先輩…。どうやら、右からおばけ役の人が出てくるみたいなので一旦、俺の左に来てもらえますか?」
「え、どうして分かるの?」
「なんとなくです…」
私は不思議に思いながらも、一旦、倉石君の左隣に行った。すると、その直後、右側に置いてあった掃除用具入れの中からおばけ役が出てきた。事前に言われていたとはいえ、やはり、怖いものは怖く悲鳴をあげそうになった。
「村田君。おばけ役だったんだね」
「倉石か。あ、さっきはありがとな」
「別にたいしたことはしてないよ。そうだ。ここの迷路は今、誰がいる?」
「えっと…たしか…宮沢、浜岸、細谷、あとは、加藤、岩崎、成田だったはずだけど、何でそんな事、聞くんだ?」
「本物のおばけと見分けるためだよ」
「へ〜本格的だな。頑張れ、でも彼女を泣かさないようにしろよ」
「いや、彼女じゃないよ…」
この2人知り合いだったんだ。って当たり前か。一年生だもんね。村田という人と別れると倉石君はまた進み始めた。
「次は左から来るみたいですね。多分、手だけですけど」
するとまた、すぐに左側の壁から無数の手が出てきた。
「ほ、本当に何で分かるの?」
「…なんなとなくです」
私と倉石君はそんな調子で手作りの祠の所まで行ってお札を返し、出口付近まで来た。
「いなかったですね。本物のおばけ」
「いなくて良かったと思うよ」
私達が扉を開けようとすると、黒い人影がスッと扉を開けた。
「あ、ありがとうございます…」
「笹井先輩…この人、8人目ですよね?」
「あ、そうだね。でも、おばけ役ではないから数に入らなかったんじゃない?」
「そうですか…」
私達は不思議に思ったが、そのまま外へ出た。外に出て受付を見ると、近藤はさっきと同じように本を読みながら座っていた。
「早かったな。悲鳴も聞こえなかったし…つまらない奴ら」
そして、顔をあげると呟くような声で私達にそう言った。しかし、倉石君はそれを気にすることなく近藤に質問した。
「ねぇ、隼一。この出口の扉を開ける係っている?」
「え?そんなのいねぇよ。受付も含めて、8人でやる事になってるんだから」
「そっか…。ありがとう。楽しかったよ。お化け屋敷」
「それは良かったな」
近藤はそう言うとまた、本に目を戻した。
受付も含めて8人…出口にいたのは…本当のおばけだったのかな。今になって、私は身震いをした。
「先輩。模擬店に行きましょうか」
「そう…ね」
倉石君はニコリと笑いながら、そう提案してくれた。また、気を使ってくれたのかな…。
私達はお化け屋敷を後にして中庭に行った。中庭ではたくさんの屋台が出ていた。
「あ、ここに座っててください。俺が買ってくるので」
「え、良いよ」
「俺も座りたいんです。ダメですか?」
「そうね。じゃあ、お願い…」
「はい」
私は木陰の下の席に着いて、周りを見渡した。ここの中庭って、こう見ると結構広い。いつもは友達と談笑しながらここを通っているから気づきもしなかったけど。この景色を見るのも今回の文化祭で最後か…。何かさみしいな。
「先輩、買ってきました。どうぞ」
「ありがとう」
倉石君が買ってきたのは缶ジュースとクッキーだった。クッキーは星型やハート型にかたどられていた。これは…可愛い。
「あの。先輩、俺の相談に乗ってくれますか?」
「うん」
倉石君は深刻そうな顔で私にそう問いた。私はもちろん反射的にうんと答えると倉石君は缶ジュースを見つめながら話し始めた。
「俺…実は…」