ラッキーセブン部
第二三話 正式な部活
笹井先輩は部室を飛びだし、隼一は吉田先生に連行され、佳介は笹井先輩を追いかけに出て…部室に残ったのは正弥と俺と戸越兄弟だけになった。
ふと、俺が戸越兄弟達を見ると2人とも正弥と同じように窓の外を眺めていた。
「あー。本当に雨降りそうだね。賢治」
「雨…雨…。あっ!俺達、自転車だ!賢一、急いで帰らないと!」
戸越兄弟はそう言うと窓から目を離し、俺と正弥を見やった。そして俺の肩をポンと叩いて足早に部室を去っていった。
正弥と俺が二人っきりで話す場を作ってくれた…のかな。
「正弥」
俺がそっと声をかけると、正弥はどうすればいいのか分からないという困った顔で俺の方を振り向いた。
「俺…本当はあんな事を言うはずじゃなかった…」
そして、力なくそう呟いた。
「…それってどういうこと?あの言い方だと笹井先輩のことを完璧に部員じゃないって言ってたよね」
「…だよな。勢いでああ言っちゃったけどダメだよな」
「勢いで…?」
「笹井先輩にあの双子と接点を作って欲しくないと思ったら…な」
正弥はそう言いながらまた窓の外を眺めた。
接点を作って欲しくない…?それって…正弥、先輩の事…完全に好きって言ってるようなものだよ。
「正弥。先輩の事…好きなの?」
「なっ!ち、違う!」
明らかに動揺してる…。自分の気持ちに気付き始めたのかな?もうちょっと、探りを入れてみよう。
「確かに接点を作りたくないの、分かるよ〜。あの2人、イケメンだからね」
「…だ、だよな。去年よりあいつら顔立ちが良くなってたんだよな」
「でも、正弥。イケメンと先輩の接点を作らせたくない理由って何?」
「理由…。あ、あれだ。隼一の恋を応援しようと…」
おいおいおい。隼一告白事件の時、一番動揺してたの正弥でしょうが…。
ま…でも、そこまで自分の心を偽りたいなら…。
「それなら、俺も応援しようかな」
「そ、そうか…」
「正弥を」
「…は?」
「自分の心に正直になるまで応援してるよ」
「…俺は別に」
「素直じゃない正弥を、見てるの楽しいよ〜」
「お前…俺の事、からかってるだろ」
「かもね」
バタンッ
「チッ!あの先公、絶対許さねぇ」
俺らが話し合っているといきなり扉が大きく開いて、大きな段ボール箱を抱えた隼一が入ってきた。そして、それを机の上にドンと置いた。
し…心臓に悪いな…。びっくりした…。
隼一は教室を見渡すと俺らの方を見た。
「なんだ…トゴシーズ帰ったのか」
「トゴシーズ?あの戸越兄弟のこと?」
「あぁ。桜宮先輩がそう呼んでたから」
「そんなに仲良くなったんだ。良かったね」
「いや、何も良くねぇから。あいつらといたらムカついてくる」
「その気持ちは分かるな」
「正弥まで〜。折角、7人揃うんだよ?ちょっとは辛抱を…」
「「嫌だ」」
本当…この二人は似たもの同士というかなんというか…。戸越兄弟ってそんなに厄介者なのかな?俺にはそんな風に見えないんだけど。さっきだって、話す場を作ってくれたんだよ。
「それはそうと…隼一。先生は?」
「先公なら大事な資料も忘れたとか言って隣の教室にいるよ」
「大事な資料?」
「部活規定とかなんとか」
ダメだ。堅苦しい文字列を聞くと目眩が…。部活規定って…変な罰則とかが入ってくるやつだよね?俺は部活をフリーダムにやりたいんだけどな〜。
そんな事を考えていると隣の教室から吉田先生の声が聞こえてきた。
『桜宮〜。ここの棚に入れてた資料、知らないか?』
『あ…すみません。茶道室にあります。部活規定のやつですよね?』
『そうだ。…茶道室か。遠いな…。誰かに取りに行かせるか』
『私が持っていったので私が取りに行きますよ』
『大丈夫だ。暇な奴がいるから』
『…そうですか』
ここ…防音構造にはなってないとはいえ…丸聞こえだよ。それとも、二人の声が大きいのかな?どちらにせよ、大事な話が聞かれると問題だな〜。父さんに言って、学校の設備をどうにかしてもらおうっと…。
ガチャ
その会話の数秒後に部室の扉が静かに開かれて吉田先生が顔を覗かせた。
…こっちも心臓に悪い。顔だけ出さないでくださいよ、吉田先生。
「おい。暇な奴、来い」
正弥が俺に視線を流し、俺は隼一に視線を流した。隼一は、吉田先生に目を向けた。
「よし、来い。近藤」
「はぁ?」
「来い」
「お、俺。茶道室の場所…知らな…」
「来い」
隼一は吉田先生の有無を言わさぬ口調に負けたのか、舌打ちをしながらも吉田先生と一緒に廊下へと出て行った。
また、この教室は俺と正弥の二人きりになった。さっきの話の続きでもしようかな。
「さっきの話の続きだけど…どんな理由であれ、笹井先輩を傷付けたんだから謝りに行きなよ」
「謝りにって言っても明日は休日だぞ。会えるわけないだろ」
「家に行けばいいでしょ。それに…明日言いに行かないと後悔するよ。きっと…」
俺がこんな事を言える立場じゃないけど正弥に俺と同じ過ちをして欲しくない。…同じ…過ちを。
「…栄?」
「…それに家の場所が分からなくても大丈夫。これがあるから」
俺はそう言って、机の下に落ちている生徒手帳を拾って正弥に渡した。
「こ、これ…」
「笹井先輩のだよ」
さっき、笹井先輩が部室を出て行く時、落としたんだろう。
「みんな…生徒手帳落とし過ぎじゃないか?」
「確かに佳介も隼一も生徒手帳落としてるよね〜」
この部に入るには生徒手帳落とす行為が必然なのかもしれないな。
「…本当に行かないとダメか?」
「当たり前。佳介か隼一に笹井先輩を取られてもいいの?」
「いや…だから、俺は別に。…それよりなんて言って謝れば良いか分からない」
「自分の思ってる事をハッキリ言えば大丈夫だよ」
いつもの自信満々の正弥とはかけ離れた姿…。正弥がこんなだと俺まで元気なくなってくるよ。
「正弥。しっかりしてよ」
「分かってるけど…笹井先輩が関わるとどうも…調子が狂うんだよな」
誰かと一緒にいて調子が狂うことなんて…俺には、な…くはないか。そういえば一人だけいたか。
バタンッ
「…疲れた」
今回、三度目の扉が開く音がして、隼一が息をつきながら入ってきた。その後ろから吉田先生も入ってきた。
「ほら、資料だ。部長は特に目を通しておけよ。後日、部長会もあるからこれは重要だぞ」
吉田先生は7枚の紙を正弥に渡すと偉そうに腕を組んだ。紙を渡された正弥は俺と隼一に一枚ずつ配った。
これが部活規定とかいうやつか…。漢字の羅列がすごい。というか…B5判の紙にこんなに文字を詰め込むのはどうかと思う。なおさら、読みづらい。
「なるほど…。部室の使い方とか活動内容の報告などですね」
正弥はサッと紙に目を通すとボソリとそう言った。
「そうだな。…あと、部長、副部長、会計を決めておけよ」
「はい」
「それでこの部の名前だが…ラッキーセブン部で良いのか?」
「…はい」
正弥は間を開けてから頷いて答えた。今まで、この名前で通してきたけどちょっと違和感を感じる。最近、ラッキーな事が全然起きてないというせいなのかもしれない。だからって、今更、名前を変える気は俺も正弥もない。それに、ラッキーな事は待ってないで自分から作らないと。
「俺から話すことは以上だが、何か質問あるか?」
「あの二つの段ボール箱は何ですか?」
「一つは文化祭で余った菓子。もう一つは学校にあったテーブルゲーム一式だ。お前らに余興のお礼としてやる」
お菓子と…テーブルゲーム一式!
俺は正弥と目が合い同時に口元が緩む。
「「ラッキー!」」
吉田先生が今だけ、とてもいい人に見える。こんなに太っ腹なら顧問に相応しいかもしれない。
「もし、散らかしたりしたら後片付けはちゃんとしとけよ。俺は職員室にもう戻るから」
「「はいっ!」」
吉田先生は、苦笑いしながら部室を出て行った。
早速、俺と正弥はテーブルゲームが入っていると思われる方の段ボール箱の中身を確認した。
将棋、囲碁、オセロ、チェス。
本当に、テーブルゲーム一式が入っていた。…すごい。こんなに揃ってるのは久しぶりに見た気がする。とはいっても…多分これ全部、俺が小学生の頃、使ってたやつだ。こんな形で対面するとは思わなかった。父さん(理事長)がこの学校で保管していたんだろう。というか、父さん物持ち良いな。いや…捨てられない性分か。
「それにしても、やけに静かだな。隼一」
「何かあったの?隼一」
「…い…いや…何もない」
正弥と俺がボーッとしている隼一に声をかけると焦った感じで首を横に振った。明らかに挙動がおかしい。
「明らかに挙動おかしいぞ」
正弥も同じ事を思ったんだね。
隼一はただただ、首を横に振るばかりで事情が全く分からない。
仕方ない。ここは諦めて…ゲームでもするか。
「三人で出来るゲームしようよ」
「栄、残念ながらこの段ボール箱に入ってる物全て一対一でしか出来ないな」
「なんとっ!!」
ということは、七人で一個ずつ使ったとしても一人だけあぶれてしまうってことじゃん。一人将棋、嫌いじゃないけど。
「やっぱり…ここはあれだな」
正弥がやれやれという感じでカバンのポケットに片手を突っ込んだ。
なるほど…。
「あれだね」
正弥の言おうとしてることは分かる。
「「ポーカー!!」」
正弥がトランプを取り出すのと同時にそう声をあげた。二人の声が重なり部室に響く。やっぱり、俺らはこれが一番遊び慣れているよね。というか、これが一番!神経衰弱や七並べのような準備の面倒さはないし、ババ抜きや大富豪よりも運の強さが大きく左右されるゲームだ。もちろん、俺の偏見ではあるけどね。
「…俺もやらないといけないのか?」
俺らが盛り上がっていると隼一が横でボソリと言った。
「もちろん」
そういえば、隼一はまだ一回しか俺らとポーカーしてなかった。しかも、あの時は熟練の俺らを抜いての二位。もし、笹井先輩が一位じゃなかったらきっと隼一が一位だったはずだ。あの一回だけじゃ強いかどうかは図りかねる。だから、もう一度、隼一と勝負してみたい。
「俺は今すぐ帰りたいんだけど…」
「俺らに勝ったら、そこにあるお菓子全部あげるよ?隼一の好きなカード入りのお菓子もあるみたいだし…」
「やる。やってやる」
そ、即答。さすが、隼一。欲には勝てないみたいだね。
「よしっ!じゃ、菓子争奪戦ポーカー開始だね」
「…ネーミング」
俺のその一声で白熱(?)の闘いが始まった。
ー数分後ー
「また、俺の勝ちだな」
試合は五回戦やって、全て隼一に圧勝された。つ…強い。
「じゃあ約束通り菓子はもらってくな。もう、帰っていいだろ?俺、色々と考えたい事があるんだよ」
「相談乗ってあげてもいいよ?」
「遠慮しとく…」
隼一はそう言うと段ボール箱と自分の荷物を持って部室を去っていった。
「なんだ。あいつ…」
「何か思い悩む事があるんだよ。それにしても…あのお菓子、一人で食べる気なのかな?」
「隼一の姉さんと食べる…というか、取られるんじゃないか?」
確かにあのお姉さんなら隼一からお菓子を奪いそうだ。
「それより、折角、二人になったから、テーブルゲームやらないか?」
「そうだね」
気付いたらラッキーな事もう起きてたんだな〜。正弥とこうして遊べる事がすでにラッキーだよね。
ふと、俺が戸越兄弟達を見ると2人とも正弥と同じように窓の外を眺めていた。
「あー。本当に雨降りそうだね。賢治」
「雨…雨…。あっ!俺達、自転車だ!賢一、急いで帰らないと!」
戸越兄弟はそう言うと窓から目を離し、俺と正弥を見やった。そして俺の肩をポンと叩いて足早に部室を去っていった。
正弥と俺が二人っきりで話す場を作ってくれた…のかな。
「正弥」
俺がそっと声をかけると、正弥はどうすればいいのか分からないという困った顔で俺の方を振り向いた。
「俺…本当はあんな事を言うはずじゃなかった…」
そして、力なくそう呟いた。
「…それってどういうこと?あの言い方だと笹井先輩のことを完璧に部員じゃないって言ってたよね」
「…だよな。勢いでああ言っちゃったけどダメだよな」
「勢いで…?」
「笹井先輩にあの双子と接点を作って欲しくないと思ったら…な」
正弥はそう言いながらまた窓の外を眺めた。
接点を作って欲しくない…?それって…正弥、先輩の事…完全に好きって言ってるようなものだよ。
「正弥。先輩の事…好きなの?」
「なっ!ち、違う!」
明らかに動揺してる…。自分の気持ちに気付き始めたのかな?もうちょっと、探りを入れてみよう。
「確かに接点を作りたくないの、分かるよ〜。あの2人、イケメンだからね」
「…だ、だよな。去年よりあいつら顔立ちが良くなってたんだよな」
「でも、正弥。イケメンと先輩の接点を作らせたくない理由って何?」
「理由…。あ、あれだ。隼一の恋を応援しようと…」
おいおいおい。隼一告白事件の時、一番動揺してたの正弥でしょうが…。
ま…でも、そこまで自分の心を偽りたいなら…。
「それなら、俺も応援しようかな」
「そ、そうか…」
「正弥を」
「…は?」
「自分の心に正直になるまで応援してるよ」
「…俺は別に」
「素直じゃない正弥を、見てるの楽しいよ〜」
「お前…俺の事、からかってるだろ」
「かもね」
バタンッ
「チッ!あの先公、絶対許さねぇ」
俺らが話し合っているといきなり扉が大きく開いて、大きな段ボール箱を抱えた隼一が入ってきた。そして、それを机の上にドンと置いた。
し…心臓に悪いな…。びっくりした…。
隼一は教室を見渡すと俺らの方を見た。
「なんだ…トゴシーズ帰ったのか」
「トゴシーズ?あの戸越兄弟のこと?」
「あぁ。桜宮先輩がそう呼んでたから」
「そんなに仲良くなったんだ。良かったね」
「いや、何も良くねぇから。あいつらといたらムカついてくる」
「その気持ちは分かるな」
「正弥まで〜。折角、7人揃うんだよ?ちょっとは辛抱を…」
「「嫌だ」」
本当…この二人は似たもの同士というかなんというか…。戸越兄弟ってそんなに厄介者なのかな?俺にはそんな風に見えないんだけど。さっきだって、話す場を作ってくれたんだよ。
「それはそうと…隼一。先生は?」
「先公なら大事な資料も忘れたとか言って隣の教室にいるよ」
「大事な資料?」
「部活規定とかなんとか」
ダメだ。堅苦しい文字列を聞くと目眩が…。部活規定って…変な罰則とかが入ってくるやつだよね?俺は部活をフリーダムにやりたいんだけどな〜。
そんな事を考えていると隣の教室から吉田先生の声が聞こえてきた。
『桜宮〜。ここの棚に入れてた資料、知らないか?』
『あ…すみません。茶道室にあります。部活規定のやつですよね?』
『そうだ。…茶道室か。遠いな…。誰かに取りに行かせるか』
『私が持っていったので私が取りに行きますよ』
『大丈夫だ。暇な奴がいるから』
『…そうですか』
ここ…防音構造にはなってないとはいえ…丸聞こえだよ。それとも、二人の声が大きいのかな?どちらにせよ、大事な話が聞かれると問題だな〜。父さんに言って、学校の設備をどうにかしてもらおうっと…。
ガチャ
その会話の数秒後に部室の扉が静かに開かれて吉田先生が顔を覗かせた。
…こっちも心臓に悪い。顔だけ出さないでくださいよ、吉田先生。
「おい。暇な奴、来い」
正弥が俺に視線を流し、俺は隼一に視線を流した。隼一は、吉田先生に目を向けた。
「よし、来い。近藤」
「はぁ?」
「来い」
「お、俺。茶道室の場所…知らな…」
「来い」
隼一は吉田先生の有無を言わさぬ口調に負けたのか、舌打ちをしながらも吉田先生と一緒に廊下へと出て行った。
また、この教室は俺と正弥の二人きりになった。さっきの話の続きでもしようかな。
「さっきの話の続きだけど…どんな理由であれ、笹井先輩を傷付けたんだから謝りに行きなよ」
「謝りにって言っても明日は休日だぞ。会えるわけないだろ」
「家に行けばいいでしょ。それに…明日言いに行かないと後悔するよ。きっと…」
俺がこんな事を言える立場じゃないけど正弥に俺と同じ過ちをして欲しくない。…同じ…過ちを。
「…栄?」
「…それに家の場所が分からなくても大丈夫。これがあるから」
俺はそう言って、机の下に落ちている生徒手帳を拾って正弥に渡した。
「こ、これ…」
「笹井先輩のだよ」
さっき、笹井先輩が部室を出て行く時、落としたんだろう。
「みんな…生徒手帳落とし過ぎじゃないか?」
「確かに佳介も隼一も生徒手帳落としてるよね〜」
この部に入るには生徒手帳落とす行為が必然なのかもしれないな。
「…本当に行かないとダメか?」
「当たり前。佳介か隼一に笹井先輩を取られてもいいの?」
「いや…だから、俺は別に。…それよりなんて言って謝れば良いか分からない」
「自分の思ってる事をハッキリ言えば大丈夫だよ」
いつもの自信満々の正弥とはかけ離れた姿…。正弥がこんなだと俺まで元気なくなってくるよ。
「正弥。しっかりしてよ」
「分かってるけど…笹井先輩が関わるとどうも…調子が狂うんだよな」
誰かと一緒にいて調子が狂うことなんて…俺には、な…くはないか。そういえば一人だけいたか。
バタンッ
「…疲れた」
今回、三度目の扉が開く音がして、隼一が息をつきながら入ってきた。その後ろから吉田先生も入ってきた。
「ほら、資料だ。部長は特に目を通しておけよ。後日、部長会もあるからこれは重要だぞ」
吉田先生は7枚の紙を正弥に渡すと偉そうに腕を組んだ。紙を渡された正弥は俺と隼一に一枚ずつ配った。
これが部活規定とかいうやつか…。漢字の羅列がすごい。というか…B5判の紙にこんなに文字を詰め込むのはどうかと思う。なおさら、読みづらい。
「なるほど…。部室の使い方とか活動内容の報告などですね」
正弥はサッと紙に目を通すとボソリとそう言った。
「そうだな。…あと、部長、副部長、会計を決めておけよ」
「はい」
「それでこの部の名前だが…ラッキーセブン部で良いのか?」
「…はい」
正弥は間を開けてから頷いて答えた。今まで、この名前で通してきたけどちょっと違和感を感じる。最近、ラッキーな事が全然起きてないというせいなのかもしれない。だからって、今更、名前を変える気は俺も正弥もない。それに、ラッキーな事は待ってないで自分から作らないと。
「俺から話すことは以上だが、何か質問あるか?」
「あの二つの段ボール箱は何ですか?」
「一つは文化祭で余った菓子。もう一つは学校にあったテーブルゲーム一式だ。お前らに余興のお礼としてやる」
お菓子と…テーブルゲーム一式!
俺は正弥と目が合い同時に口元が緩む。
「「ラッキー!」」
吉田先生が今だけ、とてもいい人に見える。こんなに太っ腹なら顧問に相応しいかもしれない。
「もし、散らかしたりしたら後片付けはちゃんとしとけよ。俺は職員室にもう戻るから」
「「はいっ!」」
吉田先生は、苦笑いしながら部室を出て行った。
早速、俺と正弥はテーブルゲームが入っていると思われる方の段ボール箱の中身を確認した。
将棋、囲碁、オセロ、チェス。
本当に、テーブルゲーム一式が入っていた。…すごい。こんなに揃ってるのは久しぶりに見た気がする。とはいっても…多分これ全部、俺が小学生の頃、使ってたやつだ。こんな形で対面するとは思わなかった。父さん(理事長)がこの学校で保管していたんだろう。というか、父さん物持ち良いな。いや…捨てられない性分か。
「それにしても、やけに静かだな。隼一」
「何かあったの?隼一」
「…い…いや…何もない」
正弥と俺がボーッとしている隼一に声をかけると焦った感じで首を横に振った。明らかに挙動がおかしい。
「明らかに挙動おかしいぞ」
正弥も同じ事を思ったんだね。
隼一はただただ、首を横に振るばかりで事情が全く分からない。
仕方ない。ここは諦めて…ゲームでもするか。
「三人で出来るゲームしようよ」
「栄、残念ながらこの段ボール箱に入ってる物全て一対一でしか出来ないな」
「なんとっ!!」
ということは、七人で一個ずつ使ったとしても一人だけあぶれてしまうってことじゃん。一人将棋、嫌いじゃないけど。
「やっぱり…ここはあれだな」
正弥がやれやれという感じでカバンのポケットに片手を突っ込んだ。
なるほど…。
「あれだね」
正弥の言おうとしてることは分かる。
「「ポーカー!!」」
正弥がトランプを取り出すのと同時にそう声をあげた。二人の声が重なり部室に響く。やっぱり、俺らはこれが一番遊び慣れているよね。というか、これが一番!神経衰弱や七並べのような準備の面倒さはないし、ババ抜きや大富豪よりも運の強さが大きく左右されるゲームだ。もちろん、俺の偏見ではあるけどね。
「…俺もやらないといけないのか?」
俺らが盛り上がっていると隼一が横でボソリと言った。
「もちろん」
そういえば、隼一はまだ一回しか俺らとポーカーしてなかった。しかも、あの時は熟練の俺らを抜いての二位。もし、笹井先輩が一位じゃなかったらきっと隼一が一位だったはずだ。あの一回だけじゃ強いかどうかは図りかねる。だから、もう一度、隼一と勝負してみたい。
「俺は今すぐ帰りたいんだけど…」
「俺らに勝ったら、そこにあるお菓子全部あげるよ?隼一の好きなカード入りのお菓子もあるみたいだし…」
「やる。やってやる」
そ、即答。さすが、隼一。欲には勝てないみたいだね。
「よしっ!じゃ、菓子争奪戦ポーカー開始だね」
「…ネーミング」
俺のその一声で白熱(?)の闘いが始まった。
ー数分後ー
「また、俺の勝ちだな」
試合は五回戦やって、全て隼一に圧勝された。つ…強い。
「じゃあ約束通り菓子はもらってくな。もう、帰っていいだろ?俺、色々と考えたい事があるんだよ」
「相談乗ってあげてもいいよ?」
「遠慮しとく…」
隼一はそう言うと段ボール箱と自分の荷物を持って部室を去っていった。
「なんだ。あいつ…」
「何か思い悩む事があるんだよ。それにしても…あのお菓子、一人で食べる気なのかな?」
「隼一の姉さんと食べる…というか、取られるんじゃないか?」
確かにあのお姉さんなら隼一からお菓子を奪いそうだ。
「それより、折角、二人になったから、テーブルゲームやらないか?」
「そうだね」
気付いたらラッキーな事もう起きてたんだな〜。正弥とこうして遊べる事がすでにラッキーだよね。