ラッキーセブン部
第三一話 悩み事
…様子がおかしい。こいつが少し変なのは知っているけど、今の栄は異常だ…。
「…金持ち…あんな会…俺が…」
隼一のお姉さん、緋奈さんが去って行ってからこんな調子だ。何かをブツブツと呟いている。
今、気付いたが栄が考え事をしている時は何かを呟いていることが多い。
「正弥先輩…栄先輩の様子おかしくないですか?」
「この先輩がおかしいのはいつものことだろ」
隼一…その事は俺が最初に説明した。しかし、後輩が珍しくこんなにも心配してるので俺は栄の様子を窺うことにした。
「…そういえば、栄…金持ち嫌いだったよな」
「金持ちというか…高飛車な人が嫌い。悪代官様とお奉行様みたいな」
「……へぇ」
しばしの沈黙が流れる。例えがどうであれ、なぜ嫌いなのかはなんとなく察することができた。
それにしても…こんな重い雰囲気を醸し出している栄は初めてだ。いつもテンションが高くて…この部のムードメーカーのような存在だった。…だけど、それ以外の栄を俺は知らないんだ。思ってみれば、ゲームと部活以外の話はしてこなかった。俺が知らないのは当たり前か。中学の時の話とかしたことないしな。知る必要もないとは思うが、栄の昔話は結構面白そうな気がする。
「…パーティーのこと悩んでるのか?」
「…うん…少し」
栄はうつむきながら、呟くような声でそう答えた。そんな栄を見て、隼一は口を挟んだ。
「どういうことだよ。念願の女に会えるなら行くべきだろ」
「隼一みたいに単純じゃないんだよ、栄先輩は」
「単純ってどういう意味だ…佳介」
栄は隼一の野次(?)に動じず、ただ一点を見つめ、ぼーっとしていた。そしてふとおもむろに俺達、一人一人の顔を見渡した。
「あのさ、パーティーに行かないであの子に会うこと…って、できないかな」
「栄先輩の家でやるんだから部屋に呼んだらどうですか?」
「いや…無理無理。女の子を部屋に呼ぶなんて…。…笹井先輩がいるならまだしも男四人しかいないんだよ?」
「え…あ、あの…俺や隼一が行く必要あるんですか?」
「一応、部員だから」
部員という言葉に隼一は少し眉間にシワを寄せたが、口は開かなかった。
「それで…もう一度言うけどパーティーに出席せず会えないかな」
「先輩が困ってんのは分かるけど、俺達に言われても困る。というか、なんでそこまでその…女の子?にこだわるんだ」
隼一がそう問うと、栄は目を丸くした。確かに俺も前からそれは疑問に思っていた。人のために何かをしたいっていう気持ちは分かるけど、そこまですることなのか…と。
「…なんでって?お姉さんのために好きな人を探してるんだよ。助けたいと思わないの?」
「ただのお節介ってやつだろ。俺達には関係ない」
隼一はため息をつくと机の上のカードを手に取り見つめた。
「そんなに悩んでるんなら、パーティーに出席するか諦めるかだろ。これ以上、俺から言うことは無いからな」
「…諦め…られないよ」
隼一は諭すように栄を見つめた。それに感化されるように栄は拳を握り、立ち上がった。
「わ、分かった。隼一の言う通り克服して出席してみせる」
隼一は半分呆れ顔をして栄を見つめた。
「先輩はやっぱ 能天気な方が、らしいですよ」
「えっと…褒められてる?」
「…それにしても珍しいね。隼一がそんな事言うなんて」
その時、傍聴側だった佳介がふと、そう呟くと隼一は苦い顔をした。自嘲というべきか。
「俺、ウジウジ悩んでるやつ見てるとムカつくんだよな。もちろん、自分がウジウジしてるのもムカつくし…」
「「そ、そうなんだ…」」
栄と佳介は同時に顔を強張らせた。二人がそんな顔をするのは納得だけれど…。隼一自身にも、言い聞かせている気がした。
「それで、パーティーっていつだよ」
そんなことはどうでもいいと言わんばかりの顔で隼一は話を変えた。
「確か…来週かな」
「来週って…夏休みに入って、すぐか」
「うん…父さんが俺も出れるようにってことでその日にしたらしい。俺、それ言われた時、出る気なんてさらさらなかったんだけどね」
ハハッと乾いた笑い声をあげて、栄は言った。
「でも、隼一にムカつかれたくないし克服する努力はするよ」
「…」
隼一は眉間にしわを寄せて、ただ栄を見つめるだけだった。
「しかし…克服するって言っても生理的に無理ならダメなんじゃないか?そもそも、栄はどうして嫌いなんだ」
「小さい頃からああいう禍々しいところにいると逃げ出したくなるもんだよ…」
つまり、生理的に無理なんじゃないか。これは…克服は期待できないな。
「…っていうか、お前ら、そろそろ帰ってくれよ。ここは俺の家だぞ。長居するな」
俺達は、当たり前だが隼一にとって招かれざる客ってことか。本当に見舞いに来たわけじゃないしな。
「じゃあ…用は済んだし帰るか。栄はどうする」
「父さんに集まりのこと聞きたいし帰るよ。佳介は?」
佳介は隼一を見て少し考えてから首を横に振った。
「…俺は残ります」
「…お前も帰れよ」
「隼一とちゃんと話出来てないじゃん」
佳介がこんなに自己主張をすることはないからこういう時、自分から折れることはないだろう…。
「正弥……行こう」
栄はそんな二人を苦笑いしながら見ていたけれど、ふと腕時計を見て焦った顔をした。これから、用事でもあるのだろうか。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「前より仲良くなったよね」
隼一の家から少し離れると栄は嬉しそうに笑いながら、そう言った。
仲良くなった…っていうのは、佳介と隼一のことだろう。
「あの二人はもともとそんなに仲悪くないだろ」
「違うよ。正弥と隼一のこと」
「…別に前と対して変わらないだろ」
「それは前から仲良かったってこと?」
「どうして、そうなるんだよ…」
「冗談だよ」
栄は意味深に俺に笑いかけた。
「…栄こそ隼一と仲良いだろ」
「隼一は自分を偽らないからね。接しやすいんだ。だけど俺、さっき、嘘をついちゃったんだよね」
「嘘?」
「そんなに簡単に克服できないよ。トラウマっていうか…なんていうか」
「隼一はああ言ってたけど、無理しなくてもいいだろ。それにさっき言ってたの栄に限らずって感じだったし」
「え?」
「いや。なんでもない」
俺の勘違いかもしれないし、あまり言いふらさない方がいいよな。
「あ!お前ら、こんな所にいたのか!」
その時、俺達の背後で聞き覚えのある声がして、振り向くとそこには学校にいるはずの英知さんがいた。
「ひ、英知さん…。なぜ、こんなところに?」
「ちょっと、アイス買いにきた。というか、お前ら、部活は?」
「今日はちょっと…部員のお見舞いで」
「とか言って、俺から逃げてたんじゃないの?」
「実はそうな…」
「おい!栄!」
「へぇ〜…そう」
栄の余計な一言で先生の目の色が一気に変わった。恒例(?)のドSスイッチが入ってしまったか。
「いい度胸してるな〜。お前ら」
「ご、ごめんなさ…」
「荻ちゃんの弱点、知ってるんだよ?」
「先生!俺のは?」
「えっと…笠森は…そうだな…無いな」
「え……」
おいおい…。どうして、今にも泣きそうな顔してんだよ。弱点無くていいだろ。
「お、おい。男なら泣くな。…お前の弱点そこだ」
「ありがとうございます!」
「「意味わからん!」」
ついつい、心の声が出てしまい、英知さんと声がきれいに重なった。
「楽しそうだね。英兄」
俺達が話していると英知さんの後ろから笹井先輩がひょっこりと出てきた。
「さ、笹井先ぱ……」
「ななちゃーん!!どうした?帰る方向違うよね」
「お見舞い。ていうか、英兄がここにいるのもおかしいと思うけど?」
「ななちゃん!アイス食べる?」
「……荻野と坊ちゃん、ちょっと……、いい?」
「「え?」」
笹井先輩は俺達の腕を掴み、いとも簡単に英知さんを無視して足早に遠ざかり始めた。
「おーい!ななちゃーん……」
英知さんの声が遠ざかると笹井先輩は立ち止まり、俺達と向かいあった。
「笹井先輩…?」
「ごめんね。うちの兄が迷惑かけて…」
「迷惑なんて…だ、大丈夫ですよ」
「本当にごめん。……あれ?どうして、坊ちゃん、涙目なの?」
「…笹井先輩のお兄さんいい人ですね」
「え…?」
「名前覚えてもらえてたし、弱点にも気付いてくれました」
「英兄は記憶力いいから」
…そういう問題か?
「あ、もしかして……坊ちゃんって呼び方嫌い?」
「い、いえ!そんなことないです!」
「じゃあ、栄くんって呼ぼうか」
「え…」
「……っ」
なんだ…この敗北感…。
「…金持ち…あんな会…俺が…」
隼一のお姉さん、緋奈さんが去って行ってからこんな調子だ。何かをブツブツと呟いている。
今、気付いたが栄が考え事をしている時は何かを呟いていることが多い。
「正弥先輩…栄先輩の様子おかしくないですか?」
「この先輩がおかしいのはいつものことだろ」
隼一…その事は俺が最初に説明した。しかし、後輩が珍しくこんなにも心配してるので俺は栄の様子を窺うことにした。
「…そういえば、栄…金持ち嫌いだったよな」
「金持ちというか…高飛車な人が嫌い。悪代官様とお奉行様みたいな」
「……へぇ」
しばしの沈黙が流れる。例えがどうであれ、なぜ嫌いなのかはなんとなく察することができた。
それにしても…こんな重い雰囲気を醸し出している栄は初めてだ。いつもテンションが高くて…この部のムードメーカーのような存在だった。…だけど、それ以外の栄を俺は知らないんだ。思ってみれば、ゲームと部活以外の話はしてこなかった。俺が知らないのは当たり前か。中学の時の話とかしたことないしな。知る必要もないとは思うが、栄の昔話は結構面白そうな気がする。
「…パーティーのこと悩んでるのか?」
「…うん…少し」
栄はうつむきながら、呟くような声でそう答えた。そんな栄を見て、隼一は口を挟んだ。
「どういうことだよ。念願の女に会えるなら行くべきだろ」
「隼一みたいに単純じゃないんだよ、栄先輩は」
「単純ってどういう意味だ…佳介」
栄は隼一の野次(?)に動じず、ただ一点を見つめ、ぼーっとしていた。そしてふとおもむろに俺達、一人一人の顔を見渡した。
「あのさ、パーティーに行かないであの子に会うこと…って、できないかな」
「栄先輩の家でやるんだから部屋に呼んだらどうですか?」
「いや…無理無理。女の子を部屋に呼ぶなんて…。…笹井先輩がいるならまだしも男四人しかいないんだよ?」
「え…あ、あの…俺や隼一が行く必要あるんですか?」
「一応、部員だから」
部員という言葉に隼一は少し眉間にシワを寄せたが、口は開かなかった。
「それで…もう一度言うけどパーティーに出席せず会えないかな」
「先輩が困ってんのは分かるけど、俺達に言われても困る。というか、なんでそこまでその…女の子?にこだわるんだ」
隼一がそう問うと、栄は目を丸くした。確かに俺も前からそれは疑問に思っていた。人のために何かをしたいっていう気持ちは分かるけど、そこまですることなのか…と。
「…なんでって?お姉さんのために好きな人を探してるんだよ。助けたいと思わないの?」
「ただのお節介ってやつだろ。俺達には関係ない」
隼一はため息をつくと机の上のカードを手に取り見つめた。
「そんなに悩んでるんなら、パーティーに出席するか諦めるかだろ。これ以上、俺から言うことは無いからな」
「…諦め…られないよ」
隼一は諭すように栄を見つめた。それに感化されるように栄は拳を握り、立ち上がった。
「わ、分かった。隼一の言う通り克服して出席してみせる」
隼一は半分呆れ顔をして栄を見つめた。
「先輩はやっぱ 能天気な方が、らしいですよ」
「えっと…褒められてる?」
「…それにしても珍しいね。隼一がそんな事言うなんて」
その時、傍聴側だった佳介がふと、そう呟くと隼一は苦い顔をした。自嘲というべきか。
「俺、ウジウジ悩んでるやつ見てるとムカつくんだよな。もちろん、自分がウジウジしてるのもムカつくし…」
「「そ、そうなんだ…」」
栄と佳介は同時に顔を強張らせた。二人がそんな顔をするのは納得だけれど…。隼一自身にも、言い聞かせている気がした。
「それで、パーティーっていつだよ」
そんなことはどうでもいいと言わんばかりの顔で隼一は話を変えた。
「確か…来週かな」
「来週って…夏休みに入って、すぐか」
「うん…父さんが俺も出れるようにってことでその日にしたらしい。俺、それ言われた時、出る気なんてさらさらなかったんだけどね」
ハハッと乾いた笑い声をあげて、栄は言った。
「でも、隼一にムカつかれたくないし克服する努力はするよ」
「…」
隼一は眉間にしわを寄せて、ただ栄を見つめるだけだった。
「しかし…克服するって言っても生理的に無理ならダメなんじゃないか?そもそも、栄はどうして嫌いなんだ」
「小さい頃からああいう禍々しいところにいると逃げ出したくなるもんだよ…」
つまり、生理的に無理なんじゃないか。これは…克服は期待できないな。
「…っていうか、お前ら、そろそろ帰ってくれよ。ここは俺の家だぞ。長居するな」
俺達は、当たり前だが隼一にとって招かれざる客ってことか。本当に見舞いに来たわけじゃないしな。
「じゃあ…用は済んだし帰るか。栄はどうする」
「父さんに集まりのこと聞きたいし帰るよ。佳介は?」
佳介は隼一を見て少し考えてから首を横に振った。
「…俺は残ります」
「…お前も帰れよ」
「隼一とちゃんと話出来てないじゃん」
佳介がこんなに自己主張をすることはないからこういう時、自分から折れることはないだろう…。
「正弥……行こう」
栄はそんな二人を苦笑いしながら見ていたけれど、ふと腕時計を見て焦った顔をした。これから、用事でもあるのだろうか。
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「前より仲良くなったよね」
隼一の家から少し離れると栄は嬉しそうに笑いながら、そう言った。
仲良くなった…っていうのは、佳介と隼一のことだろう。
「あの二人はもともとそんなに仲悪くないだろ」
「違うよ。正弥と隼一のこと」
「…別に前と対して変わらないだろ」
「それは前から仲良かったってこと?」
「どうして、そうなるんだよ…」
「冗談だよ」
栄は意味深に俺に笑いかけた。
「…栄こそ隼一と仲良いだろ」
「隼一は自分を偽らないからね。接しやすいんだ。だけど俺、さっき、嘘をついちゃったんだよね」
「嘘?」
「そんなに簡単に克服できないよ。トラウマっていうか…なんていうか」
「隼一はああ言ってたけど、無理しなくてもいいだろ。それにさっき言ってたの栄に限らずって感じだったし」
「え?」
「いや。なんでもない」
俺の勘違いかもしれないし、あまり言いふらさない方がいいよな。
「あ!お前ら、こんな所にいたのか!」
その時、俺達の背後で聞き覚えのある声がして、振り向くとそこには学校にいるはずの英知さんがいた。
「ひ、英知さん…。なぜ、こんなところに?」
「ちょっと、アイス買いにきた。というか、お前ら、部活は?」
「今日はちょっと…部員のお見舞いで」
「とか言って、俺から逃げてたんじゃないの?」
「実はそうな…」
「おい!栄!」
「へぇ〜…そう」
栄の余計な一言で先生の目の色が一気に変わった。恒例(?)のドSスイッチが入ってしまったか。
「いい度胸してるな〜。お前ら」
「ご、ごめんなさ…」
「荻ちゃんの弱点、知ってるんだよ?」
「先生!俺のは?」
「えっと…笠森は…そうだな…無いな」
「え……」
おいおい…。どうして、今にも泣きそうな顔してんだよ。弱点無くていいだろ。
「お、おい。男なら泣くな。…お前の弱点そこだ」
「ありがとうございます!」
「「意味わからん!」」
ついつい、心の声が出てしまい、英知さんと声がきれいに重なった。
「楽しそうだね。英兄」
俺達が話していると英知さんの後ろから笹井先輩がひょっこりと出てきた。
「さ、笹井先ぱ……」
「ななちゃーん!!どうした?帰る方向違うよね」
「お見舞い。ていうか、英兄がここにいるのもおかしいと思うけど?」
「ななちゃん!アイス食べる?」
「……荻野と坊ちゃん、ちょっと……、いい?」
「「え?」」
笹井先輩は俺達の腕を掴み、いとも簡単に英知さんを無視して足早に遠ざかり始めた。
「おーい!ななちゃーん……」
英知さんの声が遠ざかると笹井先輩は立ち止まり、俺達と向かいあった。
「笹井先輩…?」
「ごめんね。うちの兄が迷惑かけて…」
「迷惑なんて…だ、大丈夫ですよ」
「本当にごめん。……あれ?どうして、坊ちゃん、涙目なの?」
「…笹井先輩のお兄さんいい人ですね」
「え…?」
「名前覚えてもらえてたし、弱点にも気付いてくれました」
「英兄は記憶力いいから」
…そういう問題か?
「あ、もしかして……坊ちゃんって呼び方嫌い?」
「い、いえ!そんなことないです!」
「じゃあ、栄くんって呼ぼうか」
「え…」
「……っ」
なんだ…この敗北感…。