ラッキーセブン部
第六話 7月7日
「「佳介。誕生日おめでと」」
「あ、ありがとうございます」

トイレの掃除が終わり、部室に行くと、部室が飾り付けられていた。とはいっても、笹の葉の周りに飾り付けているから、クリスマスツリーみたいになっているだけなのですが…。

「どうしたんですか?この笹…」
「栄の家から取ってきた。結構、重かったんだぞ」
「正弥が大きいのにしようっていうから、これにしたんじゃん」

先輩達が俺のために運んでくれたんだ…。

「本当にありがとうございます。こんなお祝いされたの初めてです」

先輩達は照れくさそうに笑っている。

「あ、そうだ。誕生日プレゼントあげないとな。まず、俺からのプレゼントはこれだ」

正弥先輩はそう言って俺に、小さい箱と少し大きめの箱を渡した。

「えっと…開けて良いですか?」
「欲しいものがよく分からなかったから、中身は期待すんなよ?」

俺は最初に小さめの箱の中身を確認してみた。中には、銀のブレスレットが入っていた。

「えっ!これ…高くないですか?」
「売ってもそんなに高くないと思うけどな。俺の父親が作ったやつだから。まぁ、なぜか金取られたけど」

正弥先輩のお母さんが、これを?凄い…細かい所まで模様と文字が彫られてる…。つい、見惚れてしまうほどの出来栄えです。

「腕につけろよ」
「あ、はい」

俺はおそるおそる、それを付けてみることにした。

カチッ

腕にピタリと、はまった。

「か、かっこいい…。ありがとうございます!」
「…どういたしまして…」
「正弥。もう一つの方って、食べ物?」
「…野生の感でもあるのか?栄」

栄先輩の期待の目に答えるべく、俺はもう一つの方も開けてみた。
中にはスイーツが入っていた。

「もしかして、さっき、正弥のおじが学校に来てたのってこのためだったのか?」
「冷えてる方が美味しいからな。一応、保冷剤も付けてくれてるから、家に持って帰れるけど…。ここで食べるか?」
「じゃあ、ここで食べます」
「正弥。俺の分は?」
「ん」

正弥先輩は栄先輩にもスイーツを渡した。しかし、自分の分のスイーツまではないようだった。

「先輩は…食べないんですか?」
「俺、果物は好きだけど、スイーツはあんまり食べられないんだよな。甘ったるいっていうか…」
「正弥の誕生日には大量のみかんあげるよ」
「やめろ…。それでなくても、冬の季節なんだから、みかんは普通に家でたくさん食べる事になる…」

正弥先輩…冬なんだ〜誕生日…。

「それより、栄からのプレゼントはなんだよ」
「俺からは…はい、これ!」
「ありがとうございます」

栄先輩からのプレゼントは黒い財布だった。

「これ、皮ですか?」
「うん。牛のね。牛は良いよね〜余す所なく使えるから」

意外と…高そう。あれ?中に何か入ってる?

『ポーカーの基本ルール&必勝法』

何ですか〜これ!
確かに俺、ポーカー弱いですけど。こんな見るからに先輩の手書きの説明書…見ないといけないですかね。さっきからずっとジーと見てるし…。すると、正弥先輩は手書きの説明書と栄先輩の顔を見比べてから、口を開いた。

「…もしかして、徹夜でこれ作ってたのか?」
「あ、うん。勝負を円滑に行いたいからね。正弥もいる?」
「いや、いらない…」

でも、すごく詳しく書いてある…。絵もあるし⁈この絵、クオリティ高くないですか!

「先輩。絵、すごく上手いんですね」
「そう?見たものをそのまま書いてるだけだけど」
「この絵もなかなか面白いぞ」
「正弥。それ、まだ持ってたの?」

正弥先輩から渡されたのは、数学の問題プリントだった。俺はおそるおそる中を開くと…。

「吉田先生ですか…」
「あったり!でも、一年前だからシワの数は少ないね」
「栄。佳介に絵をプレゼントすれば良かったのに」
「じゃあ、今、描くよ。何が良い?」

栄先輩はそういうと、リュックサックから、紙とペンを取り出した。
即興で描くつもりなんですか。どうしよう…これといって、描いて欲しいものは…。

「どうした?佳介」
「…じゃあ、ラッキーセブン部を描いてください」
「随分、アバウトだけど…りょーかい。描いてる間、動いてても大丈夫だからね」
「は、はい」

動いて良いと言われても、逆に動けないよ…。直立不動の俺を栄先輩は笑いながら見た。

「じゃあ、正弥とポーカーしてて」

ポーカー…。説明書見ながらやろうかな。俺はさっきの紙を見ながらやってみる事にした。

…ポーカーをやる事、20分。

「あ〜!また、負けた!もう一回!」
「この説明書、凄い…」

今、俺は正弥先輩に3連勝中…。どういうわけか、先輩の手が全て分かるような気がした。

…そして、また、ポーカーをやる事、20分。

「よーし。勝った」

しかし、それ以上、俺はなぜか勝てなくなってしまった。もしかして、手加減されてた?

「二人とも良い表情してるね」

栄先輩は色付け作業に入ったみたいだった。

それから、数分後…

「出来たよ!」

栄先輩は満面の笑みで俺達を見ながら、そう告げた。

「へ〜。相変わらず、よく書けてんな」

紙には楽しそうにゲームをする俺達が描かれていた。

「ありがとうございます!大切にします!」

栄先輩は照れくさそうに笑った。

「さて…。栄、お前も勝負するぞ」
「りょーかい。そういえば、今日って七夕なんだよね?皆で、星でも見に行こうよ」

栄先輩は手元も見ずに器用にトランプをシャッフルしながらそう言った。

「七夕だから俺が笹、拾って来たんだろ?」
「えっ。佳介の誕生日だから、お祝い事ののツリーかと思った」

栄先輩もあれがクリスマスツリーに見えるんですね…。…それより星観象か…小学生以来かもしれない。最近は空をゆっくりと見上げる余裕もなく、この高校に入るのも一苦労だったもんな。

「おーい。佳介の番だよ」
「あ、はい」
「じゃあ、星観象は栄の家で良いんだな?」
「もちろん良いよ。…やばい。フォーカードで俺の勝ちだね」
「あ〜負けた〜。じゃあ、学校前に午後7時に待ち合わせな」

…午後7時…

俺は何とか家族に頼み込んで、星観象に行くことに成功した。外に出ると辺りは流石に真っ暗で、電灯の灯りがとても明るく見える。電車で夜に学校に向かう事になるとは…。今日は彼女は大阪に行っていてメールで誕生日おめでとうというメッセージをもらった。いつもなら、こういうのを寂しく思うんだけど…今日は先輩達と星観象を夜に出来るだけで嬉しいな。

「おーい!佳介!」
「先輩!」

学校前に行くと、先輩達が元気良く俺の方へ手を振っていた。激しく振ってたのは、栄先輩だけだけど。

「栄の家に行っても驚くなよ?」
「え?驚く?」

栄先輩の家は思ったより近く、歩いて10分くらいで着いた。

「…先輩…これは誰の家ですか?こんな家って、本当にあるんですか?」
「俺の家だよ。ごめんね、玄関遠くて…」
「まぁ、もう、見慣れたけどな」

玄関遠いとか、そういう問題じゃない、これは豪邸ですよ。豪邸。噴水、池、林、よく分からない銅像。そして、奥に見えている堂々とした建物…。まるで、ベ●ルサイユの●薇の宮殿です。

「佳介、置いてっちゃうよ?」
「迷子になりたいのか?」
「いや、そんなわけないですよ」

本当にはぐれたら、シャレにならない。ここは見惚れている場合じゃない。と、心に決めていたものの、中に入っても驚きの連続だった。栄先輩の家ってどうなってんの?何か、メイドとか出てきて、展望室のエレベーターまで案内されてエレベーターの中から、外の景色が見えるし、エレベーター降りたら目の前に変な機械が置いてあるし、栄先輩のお父さんがそれをいじってるし…。お父さん…武士みたいだし…。髭が。

「おう、来たんだね。さかやんの友達。ここの機械、すべて使って空の景色を楽しむと良いよ。今日は快晴だ。星がよく見える。私は仕事があるから帰る時にはこの天井を閉めておいてくれよ」
「父さん。その呼び方やめて」
「そうか?良いと思うがな。呼び方ぐらい何でも良いだろ?」

栄先輩のお父さんはそういうと、エレベーターに乗って下に降りて行った。
栄先輩の怒った顔、初めて見た。というか、さかやんって…。やばい、笑いそう…。

「おい。さかやん。この機械の使い方教えてくれよ」

シュッ(栄先輩が足蹴りを繰り出した音)
バシッ(それを正弥先輩が手で受け止めた音)

2人とも笑顔で、そんな事をするとは…。

「今日は佳介の誕生日なんだから物騒な真似すんなよ?」
「そうだよ。今日は佳介の誕生日なんだから物騒な真似させないでよ?」
「せ、先輩達!今、流れ星見えましたよ!」
「「えっ!どこ!」」

もちろん、うそなんですけど…。
闘いをやめてくれたみたいで良かったです。

「あ〜見れなかった。残念」
「また、流れんだろ。それより、天の川が綺麗だな…」
「綺麗ですね…。本当の川みたいです…」
「織姫と彦星か…」
「どうしたんですか?正弥先輩」
「いや…仕事をちゃんとお互いしてれば、離れ離れになる事なんてなかったはずなんだよな〜と思って…」

正弥先輩は椅子に持たれ掛かりながら、そう言った。栄先輩はそんな正弥先輩を悲しそうに見つめていた。

「…正弥。ごめん。星なんか見ない方が良かったよね…」
「栄は気にするな。これは、俺の家庭の問題だからな」
「家庭の問題…ですか?」

俺がそう呟くと、正弥先輩が星を指差しながら、話し始めた。

「俺の家族は今、2つに分裂してるんだ。俺は父親の所へ、妹は母親の所へな。会えるのは、年に一二度。まさに織姫と彦星だろ?…ごめんな。佳介の誕生日にこんな話しして…」
「いえ…俺はこの星観象に誘われただけでもう凄く嬉しいですから。なんか、俺だけ今日、良い思いばっかりしている気がします…」

俺がそういうと正弥先輩は大きくため息をついて俺を見た。

「お前も栄と同じで遠慮しすぎ。楽しみは皆で作るものなんだから俺達にとっても、良い思い出になってるに決まってんだろ?」

正弥先輩はそう言うと、立ち上がり机の上にある望遠鏡で空を見始めた。

「俺はな、あの川渡れると思ってるから、いつか渡れると思うんだ」
「正弥。じゃあ、俺がお供するよ」
「バカ。鬼退治しに行くんじゃないんだよ」
「じゃあ、俺もお供させてもらいます!」
「…お前らな〜。じゃあ、死ぬ気でついて来いよ」
「うん」
「はい」

…栄先輩と正弥先輩は本当に仲が良いな。お互いが支え合ってるみたいだ。俺もこの部の一員として先輩達を支えたいな。…そのためにはこの部が早く7人になり、学校に公認されないと、いけないけど。先輩達が卒業する前には…。でも、今はこの3人でも良いと思うな。今は…。
だけど、この時まだ俺は知る事もなかった四人目がすぐに出来る事を…。
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