SOAR!
二人で自転車を走らせる。
誰かに見つからないために、そして早くデートに出かけるために。
寝不足なんてすっかり忘れてた。
今の現状も、恋愛経験のない俺にとっては十分デートだけど、今日は映画を見るって決めている。それから遅めの昼飯食って、ゲーセン行って。
小谷さんとだから、楽しみなんだろうな。そう思ったら、彼女はどう思ってるのか気になって信号待ちの間に尋ねてみた。
そうしたら、やっぱり赤くなって、でもそれ以上に眩しい笑顔で、
「すっごく楽しみだし楽しいっ」
だなんて言うから、俺はその場で抱き締めたくて堪らなくなった。
「適当に座ってて」
「有難う、いただきます」
外で待たせるわけにも、母の居るリビングに居させる訳にもいかずにとりあえず自分の部屋に連れてきた、けど。
なんか、はやまったかもしれない。抱き締めたい。ジュースを飲んでいる彼女を抱き締めたくて堪らない。
「とりあえず着替えさせて」
その衝動を抑えてネクタイに指をかけると、小谷さんは慌てて背を向けた。
…付き合ってまだ二日目だしね、キスはしたけど手、まだ繋いでないしね。
そんなことを思いながら、いつもは着ない服を、でも変にならないように着替えているとふとあることに気付いた。
着替え終えても小谷さんはまだこっちに背を向けてバッグをがさごそしている。その背中に近づいた。
「っわ!?」
ギュッと抱き締める、我慢していた分強く、強く。
そして、驚いて慌てる彼女の赤くなった耳に。
「…千代…」
「!!??」
「…あー、付き合ってるのにさ、お互い名字呼びって他人行儀じゃん。だからさ…」
「だからって急に呼ばれたらビックリするよっ、心臓が凄いドキドキしてるっ」
「ははっ、俺も…っわ、え、帽子と眼鏡?」
ぽん、と顔に被せられたそれらを不思議に思って見つめた。
「うん…変装道具。サイズ合うかわからないけど、ユニセックスだし……目立つでしょ、翔くんは」
「っ!」
彼女も呼んでくれるとは思わなくて、その前の言葉は全部頭から飛んでってしまった。
覗き込んだ小谷さん…千代の顔は、俺の大好きな笑顔で、嬉しくなってキスをした。