SOAR!

そうして話せないまま、あの日、小谷さんが園田さんに借りている本を見たとき、声をかけるなら今だ、って思ったんだ。

教室には二人きりだ。

「小谷さん!」

ビックリした彼女は目を真ん丸くしていて、俺の言葉に頷くだけだった。可愛い。

それにしても俺は上手く喋れていただろうか。ドキドキと自分の心臓の音がうるさくてよくわからなかった。


部活中、ずっとソワソワしていたけど、気付かれなかっただろうか。

「あれっ、御山キャプテンが自主練なしとか珍しいんじゃないっすか?」

「今日は用事があるんだよ。気を付けて帰れよっ」

そう言って俺は駆け出した。



図書室に入って、小谷さんに声をかけたら彼女の体がバランスを崩したのが見えた。

「大丈夫!?」

思わず彼女を抱き止めていた。勢い良く離れた彼女は真っ赤になっていて、俺も後からかなり恥ずかしくなった。

でも抱き止めた体は小さくて、柔らかくて、守りたいと思った。



二人きりで歩く校内。
気になっていたことがあったけれど、ストレートに聞くのはちょっと抵抗があって、話の流れでナチュラルに聞こうと思っていた。
今考えるとこの時の俺、超ヘタレでへこむ。

「あの人、千華の彼氏なの」

そして、その言葉と屈託のない笑顔にどれだけホッとしたかわからない。
彼氏もいなくて、あのやたらイケメンな人にも恋をしてない。なら俺にもチャンスはあるんじゃないか。

そう思ったら俄然気合いが入って、ばっちりアドレスも交換できた。

バスケ一筋の俺が、恋愛って楽しいと初めて思った瞬間だった。

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