愛し*愛しの旦那サマ。
そして、内線でドアロックの解除を頼んだ後、
「じゃ、俺は帰るから」
呆然とベッドに座る彼女を置いて一人、部屋から出た。
ホテルを出ると同時に今度は一気に疲労感が襲う。
一杯飲んでさっさと帰るつもりが、あの泥酔女の隣りをクジで当ててしまったばかりに、あんな形で服を汚された挙句、こんな場所で俺をこんな事態に巻き込んだ張本人の酔い覚ましに付き合う破目になるとは……
次からは塚本にしつこく誘われても、断固拒否だな。
今日みたいな事は二度とごめんだ。
と、そう思うも―…
帰路に着きながら、脳裏に浮かんでくるのは、彼女の哀しげな寝顔と一筋の涙の跡―…
そんな姿を見た瞬間、その涙の跡を拭う様に、自分の指先で彼女の頬に触れてしまっていた。
何が自分をそんな行動に移らせたのかはわからない。
そして、勿論。
こんな最悪な出会いをした彼女が自分にとって、かけがえのない大切な存在になるという事もまだ分からずに―…
年の瀬が近付き、普段よりも一際賑わう繁華街を後にした。