先 生 、 好 き で す 。
出 会 い
今日も誰もいない家を出て、
耳にはイヤホンを付けて
別に好きでもないバンド系の音楽をかけ
見えるはずの景色を封じ込める。

なんでこんな風になってしまったんだろう。

ふと視界に入った同じ駅へ向かっているだろう2人組の女子生徒達。
何やら楽しそうな顔で喋っている様子が
はっきり分かる。

いつからだっけ、あんな風に笑えなくなったのは。

思い出したくもない忌々しい記憶が
私の意思関係なく頭の中を駆け巡る。

止まれ、止まれ。

心の中に言い聞かせ
ポケットから音楽プレイヤーを出し
音量をあげて
私は歩くスピードを速めた。



もう慣れた押しつぶされそうなほど
人でいっぱいの電車の中は、

あの時の思い出したくない記憶が
戻ってくることがない。

記憶が戻ってくるのは
大抵一人になったとき。
ある意味私は寂しがり屋なのかも知れない。

とか考えているとあっという間に駅についていた。


通っている高校は駅からすぐ近くで便利だから
そんな理由で高校を選んだ。

教室につくといつものことだが
女子のグループ男子のグループで
それぞれはっきり分かれていて
ざわついている
そんな風景を無視し席についた。

もちろん話しかけてくる人なんていなくて
誰も私を視界に入れている人なんていなくて
この教室の中で空気のような存在の私。

「佐倉! おはよう」

あ、違った。
1人だけいたんだった。
最近、空気の私に話しかけてくる変な人。


「…おはよ」


「佐倉奈月さんは

相変わらずクールですねー」



変人の名前は

櫻木賢人。

私の前の席で出席番号も近いので
唯一毎日話しかけてくる。
いつもいつも笑っていて
クラスの皆と仲いいムードメーカー的存在の櫻木が
なぜ最近話しかけてくるのか。
きっとそれはクラスの皆も思っている事で。


「ねー?何の音楽聞いてんの?」


「別になんでもいいじゃん」


「教えてくれたっていいじゃーん」



うるさいな静かにしてくれ。
と言いつつ少しこいつのおかげで
学校も行くのがそこまで嫌じゃなくなった。
まあ、うざいけど。
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