先 生 、 好 き で す 。
櫻木とくだらない話をしていると
突然ガラッと教室のドアが開いた。
そこから入ってきたのは

担任の北見恭也。
25歳くらいの新米教師で
容姿が良い為、女子生徒から人気があるらしい。
綺麗事で面倒な事は嫌いなよくいる教師。
この時の私は北見恭也についてこんな風に思っていたんだ。

あっという間にHRは終わり
担任もいなくなっていた。

それからの授業も上の空。
窓を見ると鳥が飛んでいて
だから何って感じなんだけどさ。



「佐倉ー!お前今日日直だろ?」


「そうだけど、何かあった?」


「担任が職員室に来いってさ」



外を見ると空はオレンジに染まっていて、
重い足取りで職員室へ向かう。

ドアを開けた途端
冷房の風がすぅーっと通ると同時に
かすかにコーヒーの香りがする。



「…お前日直だよな」


「そうですけど」


「このプリント配っといてくれ」


そう言って渡された積み重なっているプリント。


「俺も教室行くし一緒に行くか」


ニコっと笑う北見。
良い教師ぶって馬鹿みたいだ。



「どう?半年ぐらい経ったけど

クラスは慣れた?」


「まあ、はい」


「そっかそっか。

何かあったらなんでも聞くから」


「でも先生、私の名前忘れてますよね」


「ひどいな、覚えてるよ

佐倉奈月さん?」


クスっと笑って言われ
無性に腹が立った。



「良い教師ぶるのやめてもらえますか」

立ち止まって北見の顔を見ながら言った。


「俺まだまだ若いし、
そんな風に見えるみたいだけど

意外にお前らの事ちゃんと見てんだよ」



「私、大人信用できないんです。

だから無理して関わらなくていいですよ」



「お前は関わりたくなくても

俺は佐倉と関わりたいの。

だから今しゃべってんのも俺のわがままなんだよ」



「…あっそ」

吃驚してつい反応が遅れた。



「ん、で、大人が信用できないって言ってたけど、
俺の事信用しようともしてなかったでしょ。
だからただの言い訳にしか聞こえない。

でも信用したくないってことは
何かあったんだろ。
今すぐ話せとは言わないし
無理に聞かない。
誰だって知られたくないことはあるんだから。
俺だってある
一つだけ覚えておいてほしい。
俺は教師である限りお前を裏切らない。
今は信用しなくてもいい。
でもな俺はお前のことを信用してる。
どんなことからもお前ら生徒全員を守るって
とっくの前に腹くくってんだよ」

オレンジの光が窓に反射して
北見の頬が少し赤く見える。

こんなことを言われたのは初めてで。
多分今までで1番聞きたかった言葉
『裏切らない』
そんなの教師だから言ってるの分かってるけど
でも嬉しくて。

その時なにか冷たいものが頬を伝った。
これは涙と理解するのにそう時間はかからなくて、
安心しきってしまって
これでもかってくらい泣いてしまった。
北見とちゃんと話したのは今日で初めてなのに
あの日以来どんなことがあっても
泣かなかったのに、
どんどん溢れてくるこの想い。



「…今まで1人で我慢してたんだろ。

よく頑張ったな」



その瞬間あたたかい何かが優しく頭に置かれた。
それは北見の手で、
無意識に私の手が北見の手に置かれていて。



「いいよ、いくらでも泣け。

でも泣くのは俺の前だけでいいから」



「…先生」



オレンジ色に染まった私達2人だけの廊下で
私の苦しい恋は始まっていた。
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