不謹慎ラブソング

「何で、怒らないんだよ」
 

礼人君がゆっくりと私から離れた。


彼の真面目な声を聞いたのは、これが初めてだったかもしれない。


ようやく目が合った時、礼人君の表情は、怒っているようで、悲しそうな、何とも言えないものだった。
 

「え……、今のって、怒っても良かったの?」
 

お堂の外へ聞こえないほど小さな声で訊ねると、遠慮がちながらに頬を叩かれた。
 

「何で、杏里は優しいんだよ。人に優しくしたって、良いことなんて全然ないのに……。嫌なら、俺のこと突き飛ばせば良かったじゃないか。大声あげれば良かったじゃないか!」
 

起き上がり、私は礼人君と向かい合って座る。


何と言えば良いのかも分からずに、無言で彼の髪を撫でてみる。


すっかり黙り込んでしまった礼人君は、私の手を振り払うわけでもなく、俯いたままでいた。
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