不謹慎ラブソング
夕陽が沈む頃、早足に家へと向かっていた私は、急に誰かに呼び止められた。


名前ではなく、「あの…」と。


何か落としたのかと思い、振り返ると、同じ歳くらいの女性が立っていた。


大学生なのだろうか。随分と現代的な服装をして、大きな鞄を持っていた。


「何ですか」


私の言葉に、女性は少し戸惑いながら、もう一度、「あの…」と言った。


「もしかして、芹沢莉那さん、ですか?」


その響きをあまりにも久しぶりに聞くものだから、一瞬自分の名前だと分からなくて、適当な相槌を打ってしまった。


彼女は、それを正解と受け取ったのか、再び口を開いた。


「私のこと、覚えてますか?」


頭のてっぺんから足の先まで見ても、私はそれが誰だかまったく分からなかった。


小学校の頃の奴だろうか、中学の頃の奴だろうか、とにかく記憶の片隅にもその女性の存在はなかった。
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