不謹慎ラブソング
「いえ、まったく…」


そう言うと、女性は表情一つ変えずに俯いた。


「そう、ですよね。」


もしかして知り合いでしたか? そう訊ねても、女性は首を横に振るだけだった。


「良いんです、別に。」


セミロングの茶髪、少し低い鼻と、女性独特の三白眼。


痩せこけた小さな身体。


それは、特徴的でありながら、印象には残りにくい姿であった。


そして、多分、私と一緒だった頃は、こんな風貌でもなかったはずだ。


きっと、大学デビューと共に、髪を染めたり化粧をしたりとしてみたのだろう。


「すみませんでした。」


女性はそれだけ言って去って行った。


その背中が消えても、私は彼女のことを微塵とも思いだせはしなかった
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