たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
そう告げると、慎一は心底安心したというような表情で目の前のカップに手を出している。その姿を見ながら、惟は不安そうな声を上げていた。



「先ほども訊ねましたけど、本当に僕でいいんですか? たしか、最初は別の相手を考えていたんじゃありませんでしたか?」


「たしかにそうだけどね。でも、いろいろと状況も変わっただろう? それに、間違いなく君の方が何事においても上だと思っている。実際、親族会もそう思うからこそ、この決定に至ったんだろうし」


「親族会、ですか……」



慎一が口にした『親族会』という言葉に、惟が傍目にも分かるくらい不機嫌な顔になる。それを横目で見ながら、慎一は「仕方がないだろう」と宥めるような声をだす。

今、話題になっている親族会というものは、この一條という一族の最終意思決定機関。なにしろ、慎一が代表を務める一條コーポレーションが政財界に絶大な影響力があることは間違いない。それだけに、どう動くことが最善かということを決めるブレーン的な存在も必要になってくる。

つまり、ここの決定が一族の最終的なものであり、それには現当主である慎一も逆らい難い。もっとも、この慎一という相手が簡単に手玉に取られるはずがない。飄々とした雰囲気ながらも、彼自身が己の思っていることを貫き通すだけの実力は持っている。

その彼と親族会という二つの意思決定機関が下した結論。それが簡単に覆されるはずがない。そのことを一條の縁戚でもある惟はよく知っている。だが、どうやら『親族会』という単語が彼にとっては鬼門なのだろう。なかなか表情が晴れてこない。

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