たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
その彼女の目に映ったのは、店員たちに囲まれ柔らかな笑顔を振りまいている惟の姿。誰よりも恋しい相手のその姿に、彼女の胸がギュッと締め付けられる思いがしたのは間違いない。そんな彼女の耳に、スタッフが惟にかける声が飛び込んできていた。



「惟様、ご婚約おめでとうございます」


「雑誌、拝見しました。本当に可愛らしい方ですよね」


「アンジー様の新作がほんとに似合っていらっしゃいましたよね。あんな方がいらっしゃったんですね」



彼らにしても、雑誌を見た時は信じられない、という思いの方が強かったのだろう。だが、落ちついて考えれば『一條』という家の名は魅力的すぎる。

だとすれば、ここで媚を売って覚えをよくしよう。そういう下心があるのは間違いない。それまで千影と惟の組み合わせが当然、という顔をしていた面々の様子が違う。

そのことを敏感に察した千影の表情が一気に強張っていく。それでも、このショップの責任者は彼女。席を外している間は仕方がないが、こうやって戻ってきた。

となれば惟に挨拶をしなければいけないことは分かっている。それなのに、なかなか足が前に進まない。そんな複雑な思いを抱いている彼女の姿を見つけたのだろう。惟がにこやかな表情で千影に声をかけてきていた。



「南原、外出していたんだね。ちょっと話があるんだけど、構わないかな?」


「あ、はい。おいでになっているのに、留守にしていて申し訳ありませんでした。はい。時間でしたら大丈夫です。どのようなご用件でしょうか?」

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