たとえ、これが恋だとしても~あなたとSweet sweets~
先ほどラ・メールで亜紀に詰め寄っていたのと同一人物とは思えない笑顔で、千影は惟の声に応えている。それに対して彼は『奥で話そうか』と言いながらその場を立つ。そんな惟の姿に何かを期待するのだろう。頬を微かに赤くしながら大人しく後をついていく。

やがて、事務室が目の前にやってくると、千影はすっと扉を開き惟を招き入れる。そのまま隣の給湯室でコーヒーの準備をすると、いそいそと室内に入っていた。その姿は、前に亜紀たちが一緒にいた時の『私はお茶汲みではありません!』と叫んでいた姿が嘘のよう。

そんな彼女の姿に、気づかれないようにため息をこぼしている惟。だが、話を早く済ませたいという思いがあるのだろう。椅子に腰かけると、彼女が差し出すコーヒーを受け取ることしかできなかった。



「惟様、お話とは何でしょうか?」


「うん。しばらくの間、煩くなると思うんだよ。君たちには迷惑かけるけど、すぐに治まると思うから」



その言葉に、彼女は週刊誌の記事を思い出している。間違っても口にしたい言葉ではないが、ここでそのことに触れないわけにはいかない。そのことも分かっている彼女は、できるだけ平静なふりをして口を開く。



「それはそうと、ご婚約おめでとうございます。お式はいつになるのでしょうか?」



このようなことを言いたいのではない。だが、話の流れではそうしなければいけない。そのことに内心苛立ちを感じている千影だが、そのような色をみせる気配はない。そして、惟は彼女の問いかけに穏やかな表情で応えていた。
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